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コラム

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心の耳で聴くユニバーサル社会へ

執筆者:松森 果林
神奈川工科大学福祉システム工学科ユニバーサルデザイン非常勤講師、共用品ネット会員
株式会社ピクセン商品企画顧問として、香りを使ったユニバーサルデザインの開発に取り組む。E&Cプロジェクトでの内田洋行商品企画部メンバーとの出会いをきっかけに、製品へのアドバイスなどもいただく。
著書『星の音が聴こえますか』(筑摩書房)、芳賀優子さんとの共著『ゆうことカリンのバリアフリー・コミュニケーション』(小学館)など

伝える・伝わる・伝え合う

聞こえない母親の育児って?

1999年私は男の子を出産しました。出産後は、息子とのふれ合いが私にとって最も大切なことになりました。これからは自分ひとりではなく、息子の命も守らなければなりません。息子とのコミュニケーションに不安もありました。最初に困ったのは赤ちゃんの泣き声が聞こえないということでした。泣いてないか心配で、ご飯を作っている最中何度も赤ちゃんの様子を見に行きました。夜中の授乳の時は夫に起こしてもらったり、3時間ごとに携帯電話のアラームをセットし振動で起きるようにしたり、様々な工夫をしました。
私は、右手と左手の人差し指を出して、そっと並べる「いっしょ」という手話が大好きです。息子が泣いている理由が分からず途方に暮れたときなど、よく抱きしめながら「いつもいっしょだよ」と手話で話しかけていました。すると、息子は5ヶ月の時に「いっしょ」という手話をたどたどしい指づかいで話したのです。早い段階から私たち親子は意外にも多くのことを手話で伝え合うことができていました。

井戸端手話会議

お母さん同士のつき合いも最初はなかなか輪に入れなかったのですが、あるお母さんが「井戸端手話会議をやらない?」と言ってくれたことをきっかけに週に一度、みんなで手話を覚える会が発足しました。初めは5〜6人だったのが、今では30人近くになっています。手話を通して地域とのつながりが広がったのはとても嬉しいことでした。
手話は決して難しいものではありません。「バナナ」は皮をむく仕草ですし、「食事」もご飯を食べる仕草、「掃除」も掃除機をかける動作そのままです。日常生活の中で私たちが何気なく使っている動作がそのまま手話になっているものが多くあります。

「ギリギリ」

また、ある健聴者(※1)の友人は「ギリギリ」という手話を股間にハイレグのVの字を手で引いて表現します。本当は「指先を上に向けた右手を左右に揺らしながら目前に近づける」のが正しいのですが、こんなオリジナル手話は楽しいもの。別れるときも足と足の間から顔を突き出して「股ね〜、バイバーイ!」とか。
息子とのたどたどしい会話、井戸端手話会議、友人との他愛ないおしゃべり……。様々な出会いを見渡してみると、コミュニケーションというのはコトバではないのかもしれない、と思うことがあります。伝える、伝わる、伝え合う。そして伝えたいというキモチ。何かを伝えるのは、この「ハート」が一番大切なのではないかと思うのです。

※1 聴機能が正常な人

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