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コラム

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心の耳で聴くユニバーサル社会へ

執筆者:松森 果林
神奈川工科大学福祉システム工学科ユニバーサルデザイン非常勤講師、共用品ネット会員
株式会社ピクセン商品企画顧問として、香りを使ったユニバーサルデザインの開発に取り組む。E&Cプロジェクトでの内田洋行商品企画部メンバーとの出会いをきっかけに、製品へのアドバイスなどもいただく。
著書『星の音が聴こえますか』(筑摩書房)、芳賀優子さんとの共著『ゆうことカリンのバリアフリー・コミュニケーション』(小学館)など

本来あるべき社会へ向かって

ユニバーサルデザインは、日本経済活性化の起爆剤

私は、ユニバーサルデザインとは本来あるべき社会の姿だと考えています。障害のある人もない人も共に同じ時間と空間を過ごせる環境。障害を乗り越えるのではなく、障害と共に安心して暮らせる社会。2005年には50歳以上の人が50%以上になるという現実と共に、考えざるを得ない環境づくりともいえます。
このような社会環境づくりに積極的に取り組むことは、停滞している現在の日本経済の起爆剤となるとも私は考えます。個人の細かいニーズに対応した製品はヒット商品につながります。例えば携帯の着信振動は、私たち聴覚障害者にとってはありがたいものですが、健聴者(※1)にとっても便利な機能です。同じように振動式目覚まし時計だって、自分だけ起きたいときには他の家族を起こさずに起きることができます。また、高齢になると高い音から聞き難くなってきますが、電話やチャイムも音の種類を選べたり、光や振動で知らせる方法を、設計の段階から選べたりすると便利なのではないでしょうか。

※1 聴機能が正常な人

新しいマーケットの創出

また、従来の障害者専用品のイメージから脱却した、どんな人にも使いやすく美しいデザインの商品は、新しいマーケットを創出すると思います。補聴器も従来の肌色の専用品イメージだとつけるのに抵抗を感じる人もいますが、カラフルでお洒落なデザインであれば気軽に使えます。聴覚障害者の数は全国に34万6千人、このうち65歳以上が68%を占めています。(※2)人の耳は40代で老化が始まり、軽度の難聴者を含めると600万人、それ以上という説もあります。こんな背景を考えると、潜在的なマーケットは大きいと思うのです。今日はちょっと早口で聞き取りにくい人との会合だから、この補聴器をつけて行こうとか。一般に普及すれば価格も安くなりますね。こんなふうに、使い手(ユーザー)も、作り手(メーカー)も、専用品という枠を越え、視野を広げてモノづくりをしていけばマーケットは広がるはず。企業にとって挑戦していく価値のあるマーケットだと思います。

※2 厚生労働省調査(2001年)

ソフト面でのユニバーサルサービスが重要

もう一つ重要なのがソフトの部分、あらゆる人の立場に立って公平な情報とサービスを提供する事、即ちユニバーサルサービスです。段差をなくしたバリアのないお店でも、店員さんが困っている人のサポートができなければ意味がありません。逆に物理的にバリアのある建物でも、車椅子のお客様に対してサッと手助けをしてくれる店員さんがいれば、解決できる事は多くあるんです。私は今ユニバーサルサービスに興味があって研究会に参加しています。

作り手と使い手の距離を縮める

ユニバーサルデザインやユニバーサルサービスは、作り手である企業が足元を見直すチャンスだと思います。会社の中に障害のある方がいれば、それは実体験データの宝庫。どんどん相談していろいろなニーズを引き出し商品企画や新しいサービスの提案に活かしてください。お年寄りが来店しやすいお店づくりなんていう課題にも一役買えるはずです。こうした商品やサービスを提供する企業はブランドイメージも高まりますし、社員自身も自分の会社に誇りを持てるようになります。いろいろな人々が一緒に相談しながら、同じように暮らせる工夫をしていく。本当はすごく簡単なこと。作り手と使い手との距離を縮めていくことに他なりません。このような商品やサービスが広まれば、お年寄りも障害者も外国人も、同じ空間や時間を共に過ごすことができるようになります。そうしたぬくもりある社会は経済も活性化し、豊かな文化を生み出していくのではないでしょうか。

障害者も健常者も子供もお年寄りも…すべての人はつながっている

私は、聞こえなくなったことで、人とのコミュニケーションを大切に考えるようになりました。外見で分からない聴覚障害はバリアフリーやユニバーサルデザインという面で、どうしても取り残されがちです。
見た目には分かりにくい障害なので、それを見えるようにするのも一つのバリア解消の方法です。私が耳の聞こえない人であることが分かっていれば、声をかけて無視されたと思われずにすみます。自分から声を出してメッセージを発して歩み寄る――使い手が我慢するのではなくて積極的に声を出し、作り手はそれをきちんと受け止め応えていく社会の仕組みづくりが大切なんです。
障害者や健常者、子供やお年寄り、日本人と外国人、作り手と使い手、など物事を分ける言葉はありますが、それらは必ずどこかでつながっている。こうしたユニバーサルな視点から、モノづくり、サービス、そして社会を考えていくことが閉塞した時代を変えるカギになるのではないかと思います。

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