長引く不況により、この20年間で日本企業はどんどん弱くなったと言わざるを得ません。
私は、経済産業省の「日本の『稼ぐ力』創出研究会」の座長をさせていただき、1年間、いかにして日本が稼ぐ力を取り戻せるかを議論してきました。その議論をふまえ、みなさんが今、何をしなければならないか、考えてみたいと思います。
労働人口の急激な減少によって何が起こるか
総務省が2012年に発表したデータによると、2010年から2015年で、日本の人口は146万人減少。15歳~64歳の生産年齢人口は421万人も減っています。2020年には全人口に占める生産年齢人口の割合は59.2%です。
2020年までには政府は、労働人口が6%減ると予測しています。
この結果どうなるか。人件費の高騰が考えられます。現に首都圏では、最低賃金ではコンビニのアルバイトが雇えないということが起こっています。
乱暴な数字ですが、仮に労働者の賃金が毎年3%ずつ上がっていくとしたら、5年間で15%上がります。5年間でそれだけ人件費が上がったら、それに以上に生産性をあげるか、付加価値を上げない限りは、企業は生き残れなくなります。
日本経済という視点で見ると、6%労働力が減るとしたら、労働需要も6%減らないとバランスが取れません。厳しい話ですが、一部の企業が生産性を上げられず脱落することによって、数字的にはバランスがとれるということになります。おそらく、2~3%の企業が淘汰されることになると思います。
淘汰されずに残った企業には何が起こるか。残ったのは、人件費の高騰に対応して、生産性を伸ばした企業ということになります。残った企業が、5年間で15%生産性を上げたとしたら、マクロでみれば毎年3%、5年で15%、生産性が上がることになる。
これこそが、今の日本の経済に必要なことなのです。
集中と分散
「日本の『稼ぐ力』創出研究会」で、重電業界について、欧米の他社とベンチマークを行いました。GE(米)、シーメンス(独)、と日本の企業とを比較したら、利益率が圧倒的に違う。なぜ日本企業は、GEやシーメンスに比べてこんなに悪いのか。調べてみたら面白いことがわかりました。
シーメンスは、1990年代までは利益率が日本の企業と同じように低いのです。ところが、2000年あたりからぐっと上がっている。なぜか。
キーワードは集中と分散です。シーメンスは、それまで持っていた半導体部門をアメリカの会社に売却したのです。それを境に、利益が上がっている。
グローバル化によって、世界中の企業が競争相手になります。中途半端なビジネスでは勝てません。ですから、自分たちが勝てる分野を選択しそこにパワーを集中する。シーメンスは、重電、産業機械、メディカルの3分野を選択・集中したのです。GEも同様に選択と集中によって高い生産性を維持している。
ところが、日本企業は、1社で、重電もやれば家電もやる。半導体、情報通信、はては飛行機まで手を広げてしまう。それが生産性の低下につながっているのです。
市場は世界に
自動車部品メーカーの場合を考えてみましょう。日本の自動車部品メーカーは、自動車メーカーとともに成長してきたという面があり、売り先は国内のメーカーが大部分を占めます。ところが、同業のドイツのボッシュやコンチネンタルは、世界中のメーカーに部品を納入しています。日本の部品メーカーも、せっかく日本にしかない高い技術を持っているのだから、どんどん世界に売っていくべきなのです。
グローバル化というと、大企業の話だと思う方が多いのですが、そうではありません。今はすべての企業に、選択と集中が問われています。なぜなら、もはや日本の国内のマーケットだけではビジネスが成り立たなくなっているからです。
アジアとのかかわり
昨今、アジアの需要がどんどん伸びています。中国ではこの10年で、GDPは3倍に増え、中間所得層、富裕層の人口は約8倍の8億人に増えています。日本の人口の約8倍もの中間所得層~富裕層がいるのです。
これまで日本は遠くの欧米に物を売りに行っていましたが、近くにこれだけ大きな市場があるのですから、アジアに売りに行けばいい。
今、マレーシアで、洗剤のシェアNO.1は日本企業のライオンです。ユニ・チャームも今アジアで急成長しています。南米やアフリカに進出したら、欧米のメーカーに負けたかもしれませんが、近くのアジアなら勝負できる。外食産業も、今アジアで伸びてきています。
国内にいてもグローバル化
こちらから出ていくだけがグローバル化ではありません。日本に来る人、インバウンドの利益も見逃せません。
2012年に日本に来た外国人数は850万人でした。ところが安倍内閣は、2020年までにこれを2000万人に増やすと発表しました。さすがに無理だろうと思っていましたが、2015年度の数字は1800万人~1900万人になると予測されています。2020年には目標をはるかに超えるかもしれません。人口6000万人のスペインにも6500万人の観光客が訪れていることを考えると、日本にも5000万人くらい訪れることがないとは言えません。
こうなると、日本の小売業もガラッと変わらざるをえないでしょう。
こうした流れを受け、これまでグローバル化とは関係ないと思われていた業界も、今後どうビジネスを展開するべきか、考える必要があります。
技術革新がもたらすもの
最後に、技術革新の話をしたいと思います。
10年前のトレンド予測を今読み返すと、ICTはそろそろ伸び率が落ちてくるだろうと誰もが言っていました。いくら急成長してもコンテンツを作るのも情報を発信するのも結局は人間だから、人間の数以上に伸びることはないだろうと言われていたのです。
これは間違った考えでした。
IOTに見るように、人、情報、車、家電、など全てのものがインターネットを介してつながることで、人間ではなく、物が情報を集めたり、膨大なデータを分析したりできるようになり、新たな価値やサービスを生み出す世の中が実現しようとしています。
これらの情報を活用して何が起こるのか、まだまだ未知数ですが、世の中を大きく変えることは間違いありません。
あらゆる業種が競争相手
技術革新によって自分のビジネスがどう変わるのか、常に考えていなければなりません。
これは金融も教育も医療も、全ての業界に言えることです。
JPモルガンの社長が、最大のライバルは同業他社ではなく「グーグルとアップルだ」と言ったのは慧眼です。
日本の自動車業界は、グーグルが自動運転車の開発に参入したことを軽視してはいけないと思います。
今企業に問われているのは、今起こりつつある大きな変化にどこまで対応できるかということ。
企業にとって、厳しいことではありますが、逆にチャンスとも言えます。
周囲を見回して、今、どんな変化が起きているか、自分のビジネスにどうかかわってくるか、どう戦うべきなのかを考えていただければと思います