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【内田洋行ITフェア2015in東京】 日本経済を「見通す」力 ~ここから見出す企業の成長戦略~

2015/12/4 [経営,セミナーレポート]

デフレからの脱却、財政再建、産業構造の変化、グローバル経済の潮流…と目まぐるしく変わる日本経済。これからのビジネスは、日本経済、そして世界経済がどのように動くかを読み、進むべき方向を考える洞察が必要となります。本講演では、日本経済を「見通す」力を、企業の成長戦略と絡めてお話しいただきました。

目次

  • 労働人口の急激な減少によって何が起こるか
  • 投資が景気を回復させる
  • 集中と分散
  • 市場は世界に
  • アジアとのかかわり
  • 国内にいてもグローバル化
  • 技術革新がもたらすもの
  • プラットフォームが明暗を分ける
  • あらゆる業種が競争相手

内田洋行ITフェア2015 in 東京 特別講演にて

東京大学大学院経済学研究科 教授
伊藤 元重 氏

1974年東京大学経済学部経済学科を卒業。米国ローチェスター大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京都立大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授、教授を経て1996年より現職。著書『ゼミナール現代経済学入門』、『ビジネスエコノミクス』、『ゼミナール国際経済入門』など多数。

長引く不況により、この20年間で日本企業はどんどん弱くなったと言わざるを得ません。

私は、経済産業省の「日本の『稼ぐ力』創出研究会」の座長をさせていただき、1年間、いかにして日本が稼ぐ力を取り戻せるかを議論してきました。その議論をふまえ、みなさんが今、何をしなければならないか、考えてみたいと思います。

労働人口の急激な減少によって何が起こるか

総務省が2012年に発表したデータによると、2010年から2015年で、日本の人口は146万人減少。15歳~64歳の生産年齢人口は421万人も減っています。2020年には全人口に占める生産年齢人口の割合は59.2%です。

2020年までには政府は、労働人口が6%減ると予測しています。

この結果どうなるか。人件費の高騰が考えられます。現に首都圏では、最低賃金ではコンビニのアルバイトが雇えないということが起こっています。

乱暴な数字ですが、仮に労働者の賃金が毎年3%ずつ上がっていくとしたら、5年間で15%上がります。5年間でそれだけ人件費が上がったら、それに以上に生産性をあげるか、付加価値を上げない限りは、企業は生き残れなくなります。

日本経済という視点で見ると、6%労働力が減るとしたら、労働需要も6%減らないとバランスが取れません。厳しい話ですが、一部の企業が生産性を上げられず脱落することによって、数字的にはバランスがとれるということになります。おそらく、2~3%の企業が淘汰されることになると思います。

淘汰されずに残った企業には何が起こるか。残ったのは、人件費の高騰に対応して、生産性を伸ばした企業ということになります。残った企業が、5年間で15%生産性を上げたとしたら、マクロでみれば毎年3%、5年で15%、生産性が上がることになる。

これこそが、今の日本の経済に必要なことなのです。

投資が景気を回復させる

1990年の、まだ日本の景気がいいさなかに、ある方がおっしゃった言葉が印象に残っています。「一人労働力を節約できるなら、4000万円投資してもいい」と。「え? 一人に4000万円?」と思うかもしれませんが、彼の真意は、ロボットやシステムに投資することによって、人一人分の労働力を補てんするということです。こういう話が、バブルのころにはあったのだと思います。でも、長いデフレの間にみなそういう発想を失ってしまった。

ブラック企業と呼ばれようが、人件費を安くして利益を上げるのが正しいようになってしまった。

景気を良くするためには投資が必要です。「人口が減少するのに設備投資なんかする?」という発想ではなく、労働力が減っていくことに対し、それをどう補うかという発想が大事なのです。今これができない企業は、あとあと苦しくなってくると思います。

集中と分散

「日本の『稼ぐ力』創出研究会」で、重電業界について、欧米の他社とベンチマークを行いました。GE(米)、シーメンス(独)、と日本の企業とを比較したら、利益率が圧倒的に違う。なぜ日本企業は、GEやシーメンスに比べてこんなに悪いのか。調べてみたら面白いことがわかりました。

シーメンスは、1990年代までは利益率が日本の企業と同じように低いのです。ところが、2000年あたりからぐっと上がっている。なぜか。

キーワードは集中と分散です。シーメンスは、それまで持っていた半導体部門をアメリカの会社に売却したのです。それを境に、利益が上がっている。

グローバル化によって、世界中の企業が競争相手になります。中途半端なビジネスでは勝てません。ですから、自分たちが勝てる分野を選択しそこにパワーを集中する。シーメンスは、重電、産業機械、メディカルの3分野を選択・集中したのです。GEも同様に選択と集中によって高い生産性を維持している。

ところが、日本企業は、1社で、重電もやれば家電もやる。半導体、情報通信、はては飛行機まで手を広げてしまう。それが生産性の低下につながっているのです。

市場は世界に

自動車部品メーカーの場合を考えてみましょう。日本の自動車部品メーカーは、自動車メーカーとともに成長してきたという面があり、売り先は国内のメーカーが大部分を占めます。ところが、同業のドイツのボッシュやコンチネンタルは、世界中のメーカーに部品を納入しています。日本の部品メーカーも、せっかく日本にしかない高い技術を持っているのだから、どんどん世界に売っていくべきなのです。

グローバル化というと、大企業の話だと思う方が多いのですが、そうではありません。今はすべての企業に、選択と集中が問われています。なぜなら、もはや日本の国内のマーケットだけではビジネスが成り立たなくなっているからです。

アジアとのかかわり

昨今、アジアの需要がどんどん伸びています。中国ではこの10年で、GDPは3倍に増え、中間所得層、富裕層の人口は約8倍の8億人に増えています。日本の人口の約8倍もの中間所得層~富裕層がいるのです。
これまで日本は遠くの欧米に物を売りに行っていましたが、近くにこれだけ大きな市場があるのですから、アジアに売りに行けばいい。

今、マレーシアで、洗剤のシェアNO.1は日本企業のライオンです。ユニ・チャームも今アジアで急成長しています。南米やアフリカに進出したら、欧米のメーカーに負けたかもしれませんが、近くのアジアなら勝負できる。外食産業も、今アジアで伸びてきています。

国内にいてもグローバル化

こちらから出ていくだけがグローバル化ではありません。日本に来る人、インバウンドの利益も見逃せません。
2012年に日本に来た外国人数は850万人でした。ところが安倍内閣は、2020年までにこれを2000万人に増やすと発表しました。さすがに無理だろうと思っていましたが、2015年度の数字は1800万人~1900万人になると予測されています。2020年には目標をはるかに超えるかもしれません。人口6000万人のスペインにも6500万人の観光客が訪れていることを考えると、日本にも5000万人くらい訪れることがないとは言えません。

こうなると、日本の小売業もガラッと変わらざるをえないでしょう。
こうした流れを受け、これまでグローバル化とは関係ないと思われていた業界も、今後どうビジネスを展開するべきか、考える必要があります。

技術革新がもたらすもの

最後に、技術革新の話をしたいと思います。

10年前のトレンド予測を今読み返すと、ICTはそろそろ伸び率が落ちてくるだろうと誰もが言っていました。いくら急成長してもコンテンツを作るのも情報を発信するのも結局は人間だから、人間の数以上に伸びることはないだろうと言われていたのです。

これは間違った考えでした。

IOTに見るように、人、情報、車、家電、など全てのものがインターネットを介してつながることで、人間ではなく、物が情報を集めたり、膨大なデータを分析したりできるようになり、新たな価値やサービスを生み出す世の中が実現しようとしています。

これらの情報を活用して何が起こるのか、まだまだ未知数ですが、世の中を大きく変えることは間違いありません。

プラットフォームが明暗を分ける

今から15年前によく議論されていたのは、音楽CDが、ネット配信にとってかわられたように、ITの参入によって既存のビジネスが破壊される、どうしたらいいか、という非常に狭い範囲の議論でした。ところが、この5年10年で、プラットフォームというキーワードが突然でてきた。たとえば、iPhoneというプラットフォームに音楽も映像も、ソフトウエアもすべてが乗っかって、つながることで何ができるかという発想が求められるようになってきました。

プラットフォームには、そのネットワークに乗れればビジネスチャンスがあるが、乗れない企業は悲惨なことになるという「ネットワークの外部性」という特徴があります。世界で3割のシェアを持っていたノキアという携帯電話端末のメーカーが、このプラットフォームに乗れなかったことで脱落してしまったことは象徴的です。

いち早くプラットフォームを作った会社が勝ち組で、アップルやグーグルがその世界のチャネルリーダーになっている。日本企業がいくら素晴らしいデバイスを作っても、所詮アップルから見れば、一部品業者になってしまう。厳しいけれどこれが現実です。

これが単に個々の企業だけでなく、日本経済全体にどういう影響を与えるか、考えなければならないところに来ています。

あらゆる業種が競争相手

技術革新によって自分のビジネスがどう変わるのか、常に考えていなければなりません。

これは金融も教育も医療も、全ての業界に言えることです。

JPモルガンの社長が、最大のライバルは同業他社ではなく「グーグルとアップルだ」と言ったのは慧眼です。

日本の自動車業界は、グーグルが自動運転車の開発に参入したことを軽視してはいけないと思います。

今企業に問われているのは、今起こりつつある大きな変化にどこまで対応できるかということ。

企業にとって、厳しいことではありますが、逆にチャンスとも言えます。

周囲を見回して、今、どんな変化が起きているか、自分のビジネスにどうかかわってくるか、どう戦うべきなのかを考えていただければと思います

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