クラウドサービス導入のきっかけ
当社では、2010年にMicrosoftのクラウドサービス、「BPOS(現 Office 365)」 を導入しました。
Office 365 は、電子メール・スケジュール管理(Exchange Online)、ポータル・ファイル共有、個人用クラウド ストレージ(SharePoint Online、OneDrive for Business)、インスタントメッセージ、オンライン会議(Skype for Business)、社内ソーシャル(Yammer)の機能を持つ、総合的コミュニケーションのためのクラウド サービスです。
Microsoftが同サービスの提供を開始したのが2009年。その頃からクラウドという言葉が聞かれるようになり、2010年は「クラウド元年」と呼ばれた年です。
内田洋行が、Office 365 を導入した背景は、次の3つです。
1. コミュニケーションの改善
- ・老朽化しているソフトウェア・システム(ロータスノーツ)の刷新
- ・オフィス拠点分散化などによるコミュニケーションロスを回避
2. 社内実践
- ・今後、お客様へクラウドサービスを提供することを想定し、ソリューションを社内実践
- ・得られた知見・ノウハウをお客様へ提供する
3. 安価・短期間での導入
- ・インフラ投資が不要なクラウドクラウド サービスの利用
すべてをクラウドサービスに移行することに迷いがあり、導入は、段階的に行いました。
最初は、利用者の多い「メール」「予定表」から導入・移行。これは2カ月半ほどで完了しました。次に「インスタント メッセージ」「Web 会議」の導入、その次に、ポータル、Notes の移行という計画を立てていました。
ところが、2011年3月11日に東日本大震災が発生し、東京都内でも交通機関が停止し、多くの人が帰宅難民になりました。携帯電話がつながりにくくなったり、サーバールームにも被害が及んだ企業もありました。しかし、インターネット網はいつもと変わらず稼動していました。
さらには、Office 365 も平常稼動できたため、地震発生直後より、メールやインスタントメッセージで他の社員と連絡を取ることができました。
この経験から、クラウドサービスの、(1)インターネットさえ確保できれば利用可能、(2)普段は使っていなくても、いざ必要となったときに機能がいつでも利用可能な状態で用意されているというメリットを実感し、利便性・耐災害性の高いクラウドサービスの利用へ大きく舵を切りました。
旧システムから新システムへの移行を低コストで進めるには
ポータル機能(SharePoint Online)の導入にあたって、利用頻度の高い掲示板だけをまず移行しました。その間、半年をかけて、社内調整や移行準備を進めました。
移行の準備としては、最初に、現状のコンテンツの洗い出しから始めました。予算や期間の制約もあり、すべてのコンテンツを移行することはできません。そこで、移行する、しないの判断をするために、ユーザーの利用状況を確認しました。
判断基準となる観点は以下の3つです。
- (1)そのデータは、今も利用しているか?
- (2)そのデータは、今後も更新され続けるか?
- (3)“すべての機能”を今も利用しているか?
データの移行方法は、コストの低い順から次の3つを想定しました。
- (a)データをHTML化し保管
- (b)機能を縮小、または、データのみ移行
- (c)機能・データを含めた移行を検討
コンテンツを(1)〜(3)で分類し、(1)のデータは(a)の方法で移行、(2)は(b)、(3)は(c)の移行方法を取ることにしました。
その結果、約半分のコンテンツは(1)に分類され、もっともコストのかからない(a)の方法で移行。結果的に、全体の移行コストを低く抑えることができました。
コンテンツは、事業部ごとに保管し、当初は権限制限を設け、自身が所属している部門のポータルのみ閲覧可能な状態でした。しかし、「なるべく多くの情報を全社員が閲覧できる」という方針に転換し、最終的には、権限を撤廃し、社員は全ての事業分野の情報へアクセス可能になりました。
社内での認知・利用を促進するために
Office 365 の導入・社内への普及にあたっては、社長通達により設置された、社内コミュニケーションインフラ活用推進委員会の貢献が後押しとなりました。
委員会のメンバーには、IT 運用部門のほかに、経営企画部門、広報部門、各事業部門の企画スタッフのように、社内で多くのコンテンツを制作、発信する部門の社員が加わりました。
委員会の目的は、
- 1. 社内の情報がどこにあるかの明確化
- 2. “見せられる” ”見せられない”コンテンツの明確化
- 3. “不要な” コンテンツの明確化
- 4. 社内の情報がどんな手段で共有されているかの明確化
- 5. 社内ユーザーの声を拾い上げる
の5点。
委員会の活動として、
- ・Office 365 で実現できるニーズ、機能・運用の検討
- ・提供する機能に対する “ユーザーからの認知度向上”の促進
を行っています。
Office 365 導入の課題
Office 365 を導入するメリットとしては、
- ・Office クライアントとの親和性が高いこと
- ・Office クライアントからシームレスに利用ができること
がありますが、それがそのまま課題にもなりました。
当初、社内のPCの Office のバージョンはバラバラで、クラウド サービスの利用開始に合わせて、ライセンスの手配、インストールメディアの作成をしなければなりませんでした。人海戦術でインストール作業をしなければならず、大変な時間がかかりました。
また、クラウドサービスならではの課題としては、メーカー(マイクロソフト)による “強制”アップデートがありました。
アップデートのたびに、機能や UI、細かな仕様の変更が必要でしたが、いつアップデートされるのか事前に知らされないため、人員や予算の準備ができないのも大変困りました。
また、アップデートに伴い、Internet Explorer の更新もしなければなりません。
さらに、当社でカスタマイズしていた機能が、バージョンアップによって使えなくなるという事態にも遭遇しました。
そこで、マイクロフトに、次のような要求を出しました。
- 1. サービスの変更内容を事前に通知してほしい
- 2. サービスの変更を事前検証したい
- 3. 安全なカスタマイズの方針を示してほしい
現在では、上記3点について、改善がみられています。
もう一つの課題は、障害の発生です。
メーカー側は、SLA(稼働率保証)99.9% とは言うものの、実際には、
- ・メール 閲覧障害(ユーザー全体の1割強ほど)
- ・ポータル アクセス障害(全ユーザー)
- ・ポータル 一部機能障害(該当する機能を利用しているユーザー)
が発生しています。
障害発生時に管理者ができることは少なく、データセンター側の対応を待つしかありません。解決までに数日を要する場合もあります。ユーザーにどう説明したらいいのか苦慮しているのが現状です。
とはいえ、マイクロソフト側でも、そのような事態への対応として、「サービス リクエスト」という無償のサポートを提供しています。契約期間中は、管理者であれば、誰でも好きなだけ問い合せができる窓口です。当社でも年間150件ペースで利用しています。
その他の課題としては、メーカー側というよりも、ユーザー側のネットワークインフラの問題になりますが、ネットワーク帯域の不足という問題があります。
これまで社内 LAN を流れていたトラフィックがインターネットへ抜けていくことにより、インターネット回線が圧迫されるといった課題が出ています。
最初に、クラウドサービスは、インターネットさえ接続できればメールや日常業務に支障が出ないというメリットがあると言いましたが、裏を返せば、インターネットから遮断されると業務が止まってしまうというリスクがあります。
今後は、ネットワーク監視の重要性がさらに高まることを考え、BCP(事業継続計画)の観点を含めた構成などへ変更を検討中です。