改革の背景
今回は、私が2012年から取り組んでいる、オフィス改革について紹介します。改革の背景は、大きくは2つありました。
一つ目は、ベネッセコーポレーションは、進研ゼミで知られる通信教育を事業の核として成長してきましたが、急速な少子化によって、このままではビジネスが立ち行かなくなるという危機感がありました。
二つ目は、「世界No.1の教育事業会社になる」というトップからのメッセージでした。今のままの働き方では、世界No.1は無理、これはまずい。組織的な変革が必要だということで、改革のためのプロジェクトがスタートしました。
変革へのアプローチとして、次の3つを柱としました。
(1)成長のための変革
・将来の動向=「デジタル化」「グローバル化」に合わせたビジネスモデルへの転換
・新たな成長事業の創出がしやすい土壌づくり
(2)人材インフラの改革
・変革を後押しする「組織的な変化」を起こす働き方=社員の意識・行動を変えていく
(3)筋肉質化のための変革
・少子化等により、コスト構造が変化(売上・営業利益生産性の低下)
⇒収益構造の抜本的改善
改革コンセプトへと至る道
(2)人材インフラの改革では、若手社員=次世代のリーダーを集めたワークショップを開催しました。3日間缶詰になり、日々働いている中で感じている課題、解決法等について議論しました。
グローバル化、デジタル化という2つの軸で、10年後の教育市場をイメージし、4つのシナリオにまとめました。
グローバル化、デジタル化がどう進むかによって、想定される将来のシナリオ、戦略オプションや人材像が大きくかわってきます。
左上の「グローバル学習社会の到来」は、デジタル化はあまり進んでいないが、グローバル化が進んだ場合のシナリオです。国籍等々関係なく学習が進んでいくイメージです。
右上の「だれでもどこでも、3E(every time everywhere every time)教育ビジネス」は、グローバル化、デジタル化が進んだ場合のシナリオです。世界中の教育機関が、ネットワーク化され、フラット化している世界です。
右下の「本のない教室」は、デジタル化は進んでいるが、グローバル化は進んでいない場合のシナリオ。地域別にプラットフォームが整備され、子ども達は紙の教科書ではなく、タブレット端末で勉強しているかもしれません。
デジタル化もグローバル化もあまり進まなかった場合のシナリオが「寺子屋的な教育」。ローカルな環境で、対人、紙、デジタルのハイブリッドな教育が行われているかもしれません。
このシナリオに使った軸をそのまま利用して、2012年現在で、未来の兆しが見えるビジネスをプロットしてみたところ、浮かび上がってきた業界や商品・サービス、ビジネスモデルは、従来私たちがライバルと思っていなかった分野のものばかりでした。私たちが直視しなければならない問題は、少子化だけではなく、これらの新しいライバルたちなのです。従来とは違う闘い方、働き方をしなければ、立ち行かなくなることを目の当たりにしました。
働き方を変革するためのオフィス改革
ワークショップで議論した結果をもとに、どのように働き方を変えていくべきか、方向性を4つにまとめました。
- 1.求心力となるベネッセDNAの再認識
- 2.スピード重視のネットワーク組織へ
- 3.内向き文化からオープン文化へ
- 4.新たなビジネスモデル創出への挑戦
1 は当社の強みなので、守って行きたいところです。
2 は、弊社の、決定が遅い、変革がしづらいという弱点を克服するための施策です。
3、4 は、これまでにない全く新たな試みでした。
この4つの方針から、オフィスコンセプトを導き出し、実際のオフィス空間に展開していきました。
「Area Benesse 多摩センター店」=お客様×オフィスを施策としたオープン・イノベーションの場
「FPark」=SECIモデル☓脳科学を施策とした社内専用オープン・イノベーションの場
「EdTechLab」=教育☓IT(EdTech)をテーマとしたオープン・イノベーションの場
「ココラボ」=外部☓つながりをテーマとしたオープン・イノベーションの場
「史料館」=歴史☓想像力をテーマとしたオープン・イノベーションの場
「Area Benesse 多摩センター店」はお客様が気軽に立ち寄れる場で、お客様と直接交流することで、お客様のニーズや困りごとを実体験できる場となっています。
「FPark」は、野中郁次郎氏(知識経営の生みの親として知られる経営学者)のSECIモデルと、脳科学の視点を取り入れたスペースで、音、香り、色温度によってストレスを低減させ、様々な意見が言いやすい、議論が起こりやすい環境をつくりました。ぶらぶら歩く、カフェで軽いミーティングをする、一人で考えを深める、集まって議論するなどのスペースがあり、場の目的に合わせた什器を設置しています。部や課を超えたコミュニケーション、偶発的なコミュニケーションが生まれ、創造性が高まる場として、利用者にも好評です。
「EdTechLab」は、若手のインキュベーション施設で、外部の人を巻き込みながら、新たなサービスを生み出し、ベネッセの新たな事業へとつなげることが期待されています。
「ココラボ」は、ノマド的な働き方をする人が気軽に立ち寄れるオープンなスペースで、この場が他部署の人や外部パートナーとの出会いの場ともなり、コラボレーションや働き方の変革につながることが期待されています。
「史料館」は、ベネッセの発祥の地、岡山にあり、ベネッセの原点を感じながら、創造活動を行う場です。