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第22回 要支援者の給付除外について

2013/05/27

こどもの日で祝日の5月5日、一部の報道機関によって厚生労働省が要支援者を介護保険サービスから外し、ボランティアなどを活用した市町村の事業で支援する方向で具体策を検討する方針であることが報道された。このような大改革の方針を、国民の関心があまり向けられない連休中に流す意図は何かと勘ぐった。それは大型連休という世事に目を向けにくい時期にニュースを流すことによって、「軽度者切り捨て」、「給付抑制」、「制度改悪」などの批判の声が挙がる前に、この方針を既成事実化させようとするものではないのか?つまり厚生労働省が、同省に近い報道機関に、大型連休中の合間を狙って、意図的にリークして報道させたのではないかとうがった見方をしてしまう。本当にこのままの流れで制度が変えられてよいのだろうか。

平成18年の制度改正では、介護予防に重点を置くとして、それまで要介護1と認定されていた対象者まで、要支援の範囲を広げ、認定ソフトの仕組みを変えて要介護者1の利用者のおおよそ6割を要支援2とし、要支援1と合わせて要支援認定を2段階にしたのが「介護予防サービス」の始まりである。重点化といってからわずか6年で、重点サービスを制度から外してしまうというのはどういうことだろう。まやかしもいいかげんにしろと言いたい。そもそも「介護予防」といっても、それは国が名づけただけのもので、予防サービスを使っている利用者のうち、要支援2の人々の多くは、介護予防のためにサービスを利用しているのではなく、実際に生活支援が必要でサービス利用しているのである。これがボランティアなどを活用した市町村事業で代替できるとでも言うのだろうか。

4月25日の社会保障審議会・介護保険部会で厚生労働省は、社会保障制度改革国民会議の議論から示された介護に関する内容の報告の中で、要支援者の給付除外の理由について、「軽度の高齢者は、見守り・配食などの生活支援が中心であることから、要支援の介護給付範囲を適正化する」と述べている。しかし、「軽度の高齢者は、見守り・配食などの生活支援が中心である」とは、何を根拠にしているのだろう。第10回社会保障制度改革国民会議の医療・介護制度関係参考資料を読んでも、その根拠は全く示されていない。そうであればこの理由は、利用者不在の中で国が事業者団体をヒヤリングした印象か、もしくは意図的に操作した情報に過ぎないのではないだろうか?つまり根拠はないが、方針ありきで、「軽度の高齢者は、保険給付サービスを使わなくても問題はない」、「見守りや配食中心だから、保険給付は無駄」という印象を国民に深く印象づけるための屁理屈ではないのだろうか?

このことに関しては第42回社会保障審議会・介護保険部会の中でも批判的な意見が出されている。具体的には、各団体などからヒヤリングし意見交換がされているものの、利用者からの聞き取りがまったく行われていないことについて、「報告にはサービス利用者の視点と人権保障の視点がまったくないことと、給付抑制と利用者負担増につきます。」、「介護保険制度の原則は、認定を受けた人にサービスを利用する権利、ケアプランを作成する権利があることです。その原則の下に議論を進めていくことだと理解をしていますが、それで良いのでしょうか。」、「認知症の人にとって初期の時こそしっかりとしたケアを受けることで重度化させないことが大切です。国が示したオレンジプランにもあるように、早期発見、早期治療、早期に適切なケアを受けることが大切です。今後、高齢化に伴い認知症の方が大幅に増加します。国民会議での議論は軽度者切捨てであり、整合性がありません。」(いずれも勝田委員)と発言されている。そのほか複数委員から異論が出されているにもかかわらず、それらの声を無視した形で、今回の方針が示されたわけである。

前述したように、介護予防サービスといっても、実際には見守りや配食のみならず、身体介護をはじめとした暮らしの支援としてサービスを使っている人が多く、そのサービスがなければ即、暮らしに困るという人が多いのである。そもそも要支援1と要支援2の状態の違いも議論することなく、要支援者というくくりで、本来は被保険者の権利である給付を行わないという決定がされて良いのだろうか。こうした形で軽度者を切り捨ててしまうことが改正と言えるのだろうか。関係者は大いに異論を唱えるべきではないのだろうか。

ところで、医療・介護制度関係参考資料を読んで気になることがある。それは介護給付費の増加理由について、「通所介護費用が急増している」としてグラフ資料が示されている点である。民間参入が可能な居宅サービスには、個人経営の独立事業者が多く参入している。最近は立ち上げ資金が比較的少なくて済む、小規模の通所介護事業所を独立経営しようとする人々も増えている。既に全国の通所介護事業者の数は3万を超える勢いで増え続けている。その中には、筋力トレーニングなどのリハビリテーションに特化した、短時間サービスで事業展開する通所介護事業所も多いが、そうした事業所の利用者の大半は要支援者であるという事業者も多い。そうすると要支援者の制度からの除外とは、サービス種別で言えば、通所介護に通っている軽度者を切り捨てて、介護給付費急増の要因となっている通所介護費を抑制しようという意図が感じられる。

要支援者が通うサービスは、ボランティアなどを活用した市町村事業で十分というわけである。もしそうなったら、通所介護の単独事業所は、のきなみ経営悪化が避けられないだろう。事業経営問題としても大きな問題を引き起こさざるを得ないということになる。小規模で、要支援者を中心にサービス提供している事業の経営者にとっては死活問題である。

国のひとつの意図は、サービスの質を担保するためには、サービス提供単位は小規模化するという方針を持ち続けているが、経営を安定させるために、経営母体は合併を含めた大規模化を図っており、独立して小規模の事業者が増えることをこれ以上望んでいないということだろう。小規模事業主体はつぶしていこうという意図が強く感じられる。

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