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第47回 人材確保に対する国の無能・無策を斬る

2015/07/21

厚労省が、介護職員の将来推計(25年度推計)を明らかにした。それによると現状の増員ペースのままでは、2025年度に、38万人の介護職員が不足するとしている。推計をくわしく見ると、必要な人数に対し、確保できる見込みの人数の割合が最も低いのは宮城県で69%しか埋まらず、1万4136人足りない。群馬(74%)、埼玉(77%)、栃木(78%)の各県も80%を切る。

38万人という数字も、都道府県ごとの確保できる見込みの人数の割合も、あまりピンとこない数字であるが、人手不足感が強まる業界の関係者は、この数字が事業運営を危うくする最大のリスクだということに気付いていることだろうし、それは制度あってサービスなしという状況を創りだすものであるということも知っているだろう。そしてそれは必要なサービスを受けることができず、最低限の暮らしの質さえ保つことができず、ただ単に息をするだけの悲惨な暮らしの中で死んでいくたくさんの高齢者を生むという意味でもある。

しかし国民の多くがこのことに気が付いていないのが問題である。このことについて国は今まで有効な政策・施策はほとんどとってこなかったと言って過言ではない。そしてそれはもう手遅れである。外国人労働者を積極的に受け入れる方向に政策を転換したとしても、当の外国人労働者が、喜んで日本で介護労働をしようなんて思っている現実はなく、それは有効な手段にならない。

国内労働者の数を増やすための待遇改善等も、兵力の逐次投入という、常に少なく常に足りない方法しか取ってこなかったというつけにより、それは無残極まりない結果になっており、東京オリンピックに向けて景気がよくなりつつある中で、他産業への人材流出が今後、加速度的に進み、ますます福祉・介護業界の人材・人員不足は広がることは間違いがない。これは介護サービスの場で働いている人は、日に日に実感していることだろう。さらに社会保障費の抑制によって削られていく介護給付費の動向を見て、介護サービスという職業の将来性に不安を持つ人が増えており、そのことが介護の専門資格を取得するとか、介護の仕事に就こうという動機付けを著しく削いでいるのが現状である。

国の人材確保策としては、処遇改善加算によって介護職員に支払う給与をアップさせていることが一番先に取り上げられでdeているが、この加算を算定している事業所では確かに介護職員の給与は加算以前よりも上がっているだろう。しかし、その額が他産業と比較して低いのか高いのかという議論は別にしても、これによって介護職員が大幅に増えることはないと断言しておく。なぜなら介護給付費の改定は、処遇改善加算をアップしているのと同時に、基本サービス費を大幅に引き下げ、事業者の経営基盤を脆弱にさせているという実態がある。例えば特養ならば、年額にして、50床で800万、100床で1.000万円程度の収入減になっており、これにより単年度赤字決済となる法人・施設は大幅に増えるだろう。その中で介護職員に支払う給与だけがアップしても、他職種の給与が削られたり、施設で行っていた業務の一部がアウトソーシングされ、そのために退職していく職員がいる状況を見て、この職業に将来を見いだせないと不安を抱える職員が増えているのが現状である。今年給料が上がっても、将来的にそれがもっと上がっていく保証もなく、そもそも事業経営自体に不安要素が増大している現状をみて、この職業を続けて大丈夫かというささやきが、ここかしこで聞かれている。そうした状況で、どれだけの数の人が今後新たに、介護の職業を選ぶというのだろう。選ばれるわけがない。こんな簡単な理屈を、国もマスコミもまったく明らかにしようとしない。わかっているのか?これは危機的状況なのだ。

小規模の事業者はもっと悲惨だ。特に大幅に報酬が下げられて、介護予防対象者が地域支援事業に移行させられる通所介護については、小規模事業者を中心に閉鎖が相次いでいる。国の乱暴な理屈から言えば、一部の事業者がつぶれても、そこで働いている介護職員が、別の介護事業所に就業できれば問題ないし、むしろ事業者数が淘汰され、スケールメリットの働く規模の事業者で、効率運営することが人手不足対策にもなるということだろう。しかし閉鎖された小規模事業所の介護職員の、この業界からの離職も進んでいるのが現実だ。他産業の景気が回復し賃金があがっていることにより、事業経営自体に将来性を見いだせない介護業界から去る人材が後を絶たない。特にスキルの高い人材は、今は介護職員として働いていても、将来的にはその経験を生かして、自分が介護事業所を経営したいという動機付けで、介護業界に参入してくる人が多いにもかかわらず、その事業経営に不安しか与えない乱暴な基本サービス費の大幅削減が行われた現状を鑑み、この業界に見切りをつけていっている。介護事業経営に魅力を削ぐ報酬減は、高校の進路指導にも影響を与え、介護福祉士養成校への進学を勧めない就職担当教員も増えている。このように介護職に必要な数の確保につながる要素など存在しないのが現状だ。

対策の二つ目として政府は、介護福祉士が離職した場合に各都道府県の福祉人材センターに届け出も求め、再就職を促すことを盛り込んだ社会福祉法改正案を今国会に提出しているが、体力的な問題で離職する人が登録制度によって再就職が進むとは考えられないし、介護保険制度創設時に他職種からこの業界に転職した40代の人々が、そろそろ定年退職の時期を迎えることを考えると、このことによって確保できる介護職員の数など「焼け石に水」にしかならないだろう。

何度も言うように、人材・人員確保対策は、有効な手段が全くとられていないというのが現状である。抜本的に考え方を変えて、介護業界の問題としてではなく、国としてのセーフティーネットの張替策として、新たな政策を取らないと、この国自体が崩壊しかねない。それほどこの問題は、人の暮らしに深く関わる問題なのだ。

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