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第54回 人材確保の具体策がないサービス増加がもたらすもの

2016/02/15

1月17日に政府は、将来の介護施設不足が懸念される首都圏を中心に、空き家を活用した在宅介護・医療のインフラを整備する方針を固めた。そのことを伝える報道記事の中には、「空き家の有効活用を促し、空き家の解消にもつながる」という解説記事も見られる。しかしそこに必要とされるサービスを提供する「人」については何も触れられていない。

住まいの確保は重要な問題ではあるが、元気で自立している人の住まいの確保という問題ではなく、要介護高齢者の住まいの確保という問題なのだから、そこでは介護サービスを提供する人材が、同時に手当てされなければ大変なことになる。箱ものをいくら作っても、介護を提供する人がいない限り、そこは要介護者が世間の目から隔離された中で、悲惨な生活を送り、やがて誰にもみとられることなく死んでいく場所に過ぎなくなる恐れがある。

箱ものがたくさん作られる結果、そこでサービス提供する人材の確保に困るという状況は、今より深刻になることは目に見えている。そこではとりあえず人手を確保するために、多少の問題があっても、誰でも雇ってしまうという現象が起きてくるだろう。しかも現在の政府の方針は、箱ものを作るための土地や建物の確保にはお金をかけるが、そこで提供される介護サービスの費用は、できるかぎり抑制するという方針なのだから、そこで事業運営しようとする事業者は、人件費をできるだけ抑えてサービス提供しなければならず、有能な人材でもお金がかかる人は雇えず、ますますお金をかけずに済む人でサービス提供しなければならないということになってくる。

こうした状況が何を生むのか。その先に見えるものは、先週ひき起こった軽井沢スキーバス転落事故と同様の結果ではないかと危惧している。15名もの死者が出て、その大半が将来ある若者たちであったという悲惨な交通事故の原因は、間違いなく大型バスの運転に慣れていない運転手の未熟な運転技術である。そしてそうした未熟な運転手が、多くの若者を乗せて夜中の道路を走った原因は、バス業界の低賃金と人手不足である。規制緩和の名のもと、貸切バス事業が認可から許可制に変わった以後、外国人観光客の数の増加と相まって、事業者の数は倍以上に増えた。そのために大型バスの運転手の数も倍以上必要とされるのに、貸切バス事業は、大手旅行会社の厳しい締め付けで、コストダウンが必要とされ、過当競争の中で人件費はより安く抑えなければならないという状況が続き、結果として貸切大型バスの運転手という職業は、若者をはじめとした働き盛りの年齢層から選択されない職業となった。そのため運転手の高齢化が進むとともに、新たな運転手募集に応募してくる人も、リタイヤした高齢者が多くなった。その時に過去の事故の影響で、夜間走行の運転手の2名配置などのルールが新たに設けられた業界では、一層の人手不足が進行し、応募してくる人は、適性検査もおざなりにして雇用するという状況を生んでいる。今回の悲惨な事故も、その延長線上にある事故といってよいと思う。

そしてそれはまさに、現在の介護業界の状況と酷似したものであり、介護施設もたくさん作り、そのほかにも要介護者の居住場所をたくさん作る状況は、まさに貸切バスの台数がどんどん増えてきた状況と同じである。そしてそこでの運転手不足と同様に、介護サービスを提供する人の不足が深刻になると、誰でも良いから募集に応募した人をとりあえず雇用して、未熟な状態でも現場に出てもらって、とりあえずサービス提供すればよいということになる。そこでは一定水準のサービスの質の担保などと考えることもなくなるだろう。さらにこうした状態であれば、どこでも雇ってくれるから、他の介護サービス事業所で、虐待を疑われて退職せざるを得なくなった人でも、他の事業所にすぐ雇用されるという状況もなくならず、そこではサービスの質は二の次、三の次という状態が生まれるだろう。そこで提供されるサービスは、どのような劣悪な状態であろうか想像に難くない。

認知症の人がそうしたサービスを使う場合には、その悲惨さを訴えるすべさえなく、密室の中で非人間的な扱いは常態化され、渦巻く不幸が闇に葬られる社会になるだろう。介護サービスを提供すべき人材確保策がほとんどない状態で、サービスを増やす施策だけが前面に出てきている状態は、こうした心配が現実となるリスクをさらに増している。そのことを否定できる人はいるだろうか。

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