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第61回 地域包括ケアシステムに潜む盲点

2016/09/20

介護保険制度のキーワードは、地域包括ケアシステムであるかのような印象が強くなった今日この頃である。これは今後の高齢社会を考える上で、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるために地域包括ケアシステムの構築が必要不可欠であるとされているからであろう。現に介護保険制度改正は、そのシステムの構築から基盤強化という方向に向かっている。

ところで、地域包括ケアシステムが目指すものの一つに、社会全体の高齢化に伴い、増え続ける認知症高齢者や、重度の要介護高齢者が、地域で支えられ、暮らし続けられるということが挙げられる。ここで注目すべきは、地域包括ケアシステム研究会が2013年3月に作成した報告書に書かれている内容である。そこでは地域包括ケアシステムの定義を「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみな らず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常 生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」としている。過去に同列に並んでいた、「急性期入院を除く医療・介護・予防・住まい・生活支援サービス」について、「住まい」がひとつ抜け出すかたちで表記されているのである。

これは、「早めの住み替え」が推奨されているという意味である。そうであるがゆえに、2012年の介護保険制度改正時には、同時に、「高齢者住まい法」も改正され、高齢者の新たな暮らしの場として、サービス付き高齢者向け住宅を位置づけ、それを全国各地に建設することを推進し、ここへの住み替えを推進しようとしているものである。

高齢者の方々にとって、認知症の症状があるなしに関わらず、高齢期の住まいの選択肢が広がることは良いことだ。介護施設も、収容施設ではないのだから、そこは住み替えて新たに暮らしを創る場所として選択されてよいし、我々はそのために暮らしの場として選ばれる高品質のサービスを創っていく必要がある。その中で、サービス付き高齢者向け住宅という選択肢が増えたことを否定するつもりはない。むしろ歓迎すべきであると思っている。

今後は、重度の要介護状態や認知症の症状が出てきた、「ひとり暮らし」の高齢者や、「高齢者夫婦世帯」で両者に認知症の症状が出てきた場合、どちらかが重度の要介護状態になった場合などに、サ高住への積極的な住み替えが進められていくであろう。ここで考えなければならないことは、介護施設とサービス付き高齢者向け住宅の一番の違いについてである。前者は、暮らしの場に身体介護をはじめとしたサービスが組み込まれた居所である。つまり住まいと介護が一体的に提供される場所である。一方後者のサ高住は、暮らしの場を提供するといっても、身体介護は外付けであり、暮らしとケアが分離している点である。このことについては、暮らしと介護は分離されていたほうが良い。だからサ高住は、今後一番求められる高齢者の暮らしの場であるという考え方がある。

暮らしとケアが一体的に提供される介護施設が批判される理由は、利用者の暮らしの個別性を無視して、施設の都合に合わせたサービス提供しかされないというものである。しかしそれは利用者の個別性をきちんとアセスメントし、利用者目線のサービスを構築する視点さえあれば解決できる問題である。むしろ暮らしとケアが分離していないからこそ、可能となる支援行為も多い。例えば趣味活動の外出支援、レクリエーションとしての外出機会確保は、暮らしとケアが一体だからこそできることであるし、定期巡回では対応不可能なさまざまな想定外の状況に対応できるのが、暮らしとケアが一体的に提供される介護施設の利点である。

サービス付き高齢者向け住宅のケアは外付けであり、暮らしとケアが分離している。このことによって生ずる利点は、まず利用者の暮らしがあって、それに暮らしを支えるためにふさわしい外部サービスだけがそこに張り付くということである。このように暮らしとケアが分離していることをポジティブにとらえる向きもあるが、実際には、外部サービス事業者の巡回時間などの都合で、サービスの方法や質が左右されている例が数多くみられる。この点がまず問題である。また外部の巡回サービスのみで、暮らしをさせようとする場合に、いくら細かくアセスメントを行っても、想定外の時間の排泄ケアなどは対応困難であり、サ高住自体に身体介護提供機能がないことによって、失禁状態が長く放置される事例も見られる。このように必ずしも暮らしとケアの分離が、利用者のニーズとは言えないのである。

サービス付き高齢者向け住宅が、暮らしの場を提供するという以外に、基本機能として持っているのは、見守りと生活相談のみである。そうした基本機能があるのだから、身体障害のある高齢者だけではなく、運動能力が衰えていない認知症高齢者の方々も住み替えが検討される場所になるであろうが、ここで考えておかなければならないことがある。運動能力の衰えていない認知症高齢者が、暮らしの場所をサービス付き高齢者向け住宅に替えて、そこで外部サービスを受ける場合に、何が起きるかということである。外付けのサービスが訪問してサービス提供でできる場所は、居宅と認定される場所が基本であり、外出支援も保険給付されるサービスの中に含まれてはいるが、それはあくまで、「居宅から」もしくは、「居宅まで」という条件が付けられている。しかも趣味活動に関する外出支援は、保険給付の対象にならない。するとサービス付き高齢者向け住宅に住んでいる、運動能力の衰えていない認知症の高齢者の外部サービスが、定期巡回・随時対応型訪問介護看護である場合は、その巡回時間に利用者がそこにいてくれないと困るわけである。そうなるとサービス付き高齢者向け住宅の基本機能である、「見守り」は、認知症高齢者については、「外に勝手に出ない見守り」になってしまう可能性が高い。その結果、サービス付き高齢者向け住宅から一歩も出ないで、そこだけで暮らしが完結させられる認知症高齢者が出現してくる。これは果たしで住み慣れた地域で暮らし続ける、という意味になるのだろうか?それはもはや幻想地域と呼ばれる状態で、事実上、地域から隔離された空間にならざるを得ない。

要介護度が高く、自力では移乗・移動動作が取れない人も同じよう帯になりかねない。これらの人の場合は、外出させないという「見守り」を行わずとも、積極的に外出支援を行わない限り、すべての生活行為は、サ高住の中で完結する。地域の空気を感じることがなく、生涯サ高住の中だけで生活支援を受けて終わりという高齢者が増えていくというのが、住まいとケアを分離した場所で、生活支援を受ける人が増える社会の近未来像である。サ高住で生活する人の居宅サービス計画を作成するケアマネ等には、こうした幻想地域で生涯を終えるという人が存在しないように、本当に住み慣れた地域社会での「暮らし」を構築する視点が求められる。サ高住という器の中で日常生活が送れるのかという視点のみに終始せず、その人が住み慣れた地域で暮らし続けるという意味を問い続けるような支援が求められるであろう。

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