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第62回 介護業界版、牛丼戦争が始まる

2016/10/17

安倍内閣は、毎年1兆円程度ずつ増える社会保障費を半減させ、増加額を5千億円に抑える内容の、「骨太の方針」を閣議決定している。力の強い政権は、このことを着実に実行していくのだろう。ところでこのことについては、二つの意味があるということを介護事業者は考えなければならない。

一つは社会保障費は半減されるとしても、その自然増分として、毎年5.000億円は新たに国費支出があるという意味で、この部分の市場は縮小するわけではなく、拡大し続けるという意味である。つまり5.000億円という支出を狙って、そこから収益を得ようとする団体もしくは個人が、市場参入を図ることには変わりないし、その数は増えることはあっても、減りはしないということである。

もう一つの意味は、それだけの資金が特定の市場に投入されるといっても、本来の自然増より半減する費用なのだから、増大する後期高齢者にかける費用も制限されるという意味で、今までと比べると一人の人に対する給付額は減るということである。つまり収益を上げるための効率は悪くなるわけで、収益率は低くなる中で介護事業の運営を考えなければならないという意味になり、介護サービス事業経営の一つの視点は、「薄利多売」であり、いかに多くの顧客を確保するかということにかかってくるという意味にも通じてくる。

ある調査によれば、地域支援事業に移行した要支援者の訪問介護と通所介護について、低報酬にした新方式の介護サービスに参入する事業所数が、従来の報酬でサービス提供していた事業所の5割未満にとどまっている地域があるそうだ。

これはおそらく従来の予防訪問介護と予防通所介護が、地域支援事業の新総合事業として実施する総合事業サービスAが、市町村により単価設定を行うことになるため、当然従来の予防給付の単価より低い額に単価設定しており、その単価では採算が取れないとして事業参入をためらっているということだろう。しかし参入事業者がなくて、市町村が困るので、今後単価が引き上げられるなどという甘い期待は持たないことである。

この事業は職員配置基準が緩いので、今から薄利多売を目指して、総合事業サービスAに参入している事業者から見れば、参入事業者少ないことは大歓迎で、そこは草刈り場なので、今のうちに利用者を根こそぎ持っていくために、ありとあらゆる事業戦略を練っているといったところであり、サービス量が足りずに困るということにはならないからである。単価が低くて「ビジネスが成り立たない」と渋って、新総合事業に参入をためらっている事業者は、負け組予備軍である。

そもそも収益率の高い介護サービス事業だけに絞って、事業運営が継続できるほど甘い状態ではない。多くの要介護者は、要支援認定を経て要介護状態区分に移行するのである。軽介護認定を受ける人は特にその傾向が強い。そうであれば、要支援認定を受けた際に利用していた事業者を、要介護になったからといって別な事業者に変えるという動機は、よほど介護サービスに特化した事業者に魅力がない限り生まれにくく、収益率の高い公費や介護保険料を財源としたサービス事業運営だけで食っていけるほど、甘い事業戦略は成り立たないといえるわけである。そういう意味で、総合事業サービスAは、収益部門を補完する顧客確保のためのサービス部門と割り切った考え方も必要で、収益は介護事業のみならず、保険外事業もセットで考えていかざるを得ないという結論となるのではないだろうか。

特に今後は、要支援者の訪問介護や通所介護だけではなく、要介護1と2に生活援助を皮切りに、要介護2までの給付が全て、介護給付から外れていくということを前提にした事業経営戦略が求められ、これらの人々が給付を受けられない中で、自社がどれらの人々にどのような独自サービスを提供し、そこから収益を挙げていくのかという視点がないと、介護サービス事業経営はできなくなると言っても、それは言い過ぎではないだろう。薄利多売の事業戦略は、こうした面から顧客を確保するという戦略も必要で、同時に顧客に選ばれるサービスの質とはないかというニーズ調査を常に行って、リアルタイムで真のニーズに沿ったサービス定常を行っていくという方式が勝ち組につながっていく。有能な社員を、そうした事業戦略部門に持つか持たないかも、勝ち組と負け組の分かれ道になるだろう。

どちらにしても単価が安くて採算がとれないとして、工夫もなくサービスから撤退していく事業者が、業界で生き残っていけるような時代ではないことだけは確かである。

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