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第76回 徹底したい統制された情緒関与の原則

2017/12/11

介護サービスに対する世間の信頼を揺るがす事件が、また起こった。

東京・中野区の有料老人ホームで、83歳の男性入居者を湯のはった浴槽に顔をつからせて溺れさせ殺害したとして、25歳の元職員が11/24に逮捕された。事件が起こったのは今年8月で、警視庁の取り調べに対し元職員は、「何度も布団を汚したので、『いいかげんにしろ』と思ってやった」と供述しており、被害者の首を絞めたことも認めているとのことである。

介護付き有料老人ホームを利用する人が、粗相をして布団を汚してしまうのは、ある意味想定の範囲内で、仕方のないことである。そのことに腹を立てること自体が許されることではないはずだ。ところが、こともあろうにその行為に腹を立てて、利用者を死に至らしむことなどありえない行為で、一片の言い訳の入り込む隙間もない行為である。しかしこのような事件の原因を、介護のストレスと絡めて論ずることはやめてほしい。それほどあり得ない行為であるのだから。

僕が今、全国6ケ所で、「感覚麻痺・不適切ケアの芽を摘む!〜介護保険施設・事業所で虐待を発生させない〜介護サービス質向上の具体策」というテーマで講演(*1)を行っているが、そこではメンタルヘルス不調の予防のためのストレス管理が含まれている。しかしそれはストレスが虐待につながるという意味ではなく、大切な人材をメンタルヘルス不調で失わないように、ストレスに敏感になって、職員を護ろうという意味にしか過ぎない。
 *1:講演セミナー http://www.nissoken.com/s/14593/index.html

介護だけではなく、すべての職業にストレスはつきものである。しかしストレスがあるからといって、それを顧客に対する暴力という形で発散する人間は普通ではない。その行為には一片の言い訳も許されるわけがなく、それはストレスが原因で暴力に至っているのではなく、もともとパーソナリティとして欠陥があるとしか言いようがないのである。そういう人は介護の仕事に向いていないというしかない。

このような事件のたびに、介護の職業が他の職業に比べて特別なストレスがあって、それが原因で利用者が虐待を受けていると捉えられがちであるが、それは違うと言いたい。むしろそれだけ人材が枯渇していて、介護の仕事に向いていない人間を雇用してしまっているという実態があるという意味合いが強い。それに加え、事業管理者の人材不足もそこに加わっている。職員のストレス管理以前に、人に相対する職業であるということで、そこで何が求められるのかという教育をしていない管理者・管理職が増えているのだ。職員募集に応募してきた職員を、闇雲に採用して、教育は現場に丸投げという状態では、こうした介護の職業に向かない職員による虐待行為はなくならない。

人は人を見つめすぎると間違ってしまう。見つめた人の、いいものも、悪いものも自分に感染って(うつって)しまうからだ。その時冷静なもう一人の自分をきちんと意識して関わって行くことができるかどうかが対人援助サービスの関わるものに問われてくる。介護という職業は、自分以外の誰かの生活に深く関るゆえに、このことの徹底した教育が必要なのだ。

援助者は自分の感情を自覚し、自分の感情をコントロールして援助するということ。利用者の感情に引きずられて冷静な判断力を失わないという、バイスティックの7原則のひとつ、「統制された情緒関与の原則」を徹底的に学ばせ、浸透させなければならない。そのためには、徹底的な「自己覚知」を促す訓練が必要不可欠だ。自分が今、どのような行動をとり、どのように感じているかを客観的に意識すること、自分がどのような感情や意見を持ちやすいか自覚することが対人援助には不可欠なのだ。このことを事業管理者は、きちんと従業員に対して教育しているだろうか?それがされていないとしたら、その管理者は自らの役割を果たしていないという意味になる。

それにしても、このような事件が起きると、いっそのこと感情のないロボットに、自らの身を委ねたいと考えて、早く人に替わる介護ロボットを創ってほしいという声が高まるだろう。それは介護という職業が、ロボットに替わることが単純作業であるとして、貶められるという意味ではないのだろうか。そんなことがないように、我々は仮に介護ロボットが創られたとしても、そのロボットができない高品質なケアを目指していかねばならないはずである。

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