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第77回 国の新たな人材確保策は機能するのか

2018/01/15

介護事業経営を考えるとき、最大の経営リスクは事業を支える基盤となる人材を確保できなくなることだ。社会保障費の削減策の中で、介護給付費が厳しい単価となって、収益が挙がりづらい状態になることも経営リスクの一つであるが、保険給付費という財源があり、利用者ニーズがある限り、経営者の手腕で収益を挙げる事業経営戦略を立てることは可能である。しかしいくら適切な事業戦略を立て、それを実現するノウハウを持っていたとしても、事業経営者一人だけで事業運営は成り立たず、それを支える人材が必要になる。人材を確保し、適切な人員を配置することが、今後の介護事業経営上、最も重視されねばならない。

しかし深刻な人材枯渇を顕著に表しているのが、介護福祉士養成校の入学者の激減具合である。学校数が減り、残った学校でもクラス数が減り、さらにそのクラスの定員が埋まらないという専門学校が、全国そこかしこで生まれている。そんな中で政府は、昨年末の12/22に2兆8,964億円を追加歳出する補正予算案を閣議決定し、その中で介護福祉士の養成校に通う学生を支える既存の「修学資金貸付制度」の財源が底をつかないよう、新たに14億円の原資を積み増しすることを決定した。

この貸付制度は、入学する際に20万円、通学期間中に毎月5万円、卒業する際に20万円(就職準備金)を受けられもので、他の業界に就職すると返済しなければならないが、国家資格を取って現場で5年以上働けば全く返さなくてよいというものだ。この制度を利用して、介護福祉士養成校に入学してくれる学生が増えることを期待したいが、残念ながら現状を見ると、この貸付制度を活用して介護福祉士養成校に入学しようとしているのは、外国人留学生が主で、日本の高校生等の介護福祉士養成校への入学志望者が増えているという現状はない。

この制度を使って介護福祉士となる外国人留学生が増えることだけでも、それなりに意味があるのではないかと考える人もいるだろうが、日本の介護人材確保策を考えると、それはほとんど意味のないことである。なぜなら多くの留学生は、日本の学校で勉強して資格を得て、その資格を生かして日本の介護サービス事業者で働いて、ある程度の技術を身に着けた後は、母国に帰って日本で身に着けた介護知識と介護技術をもって、母国の介護ベンチャーなり、介護リーダーとして働きたいという動機づけを持った人たちであり、一時的な人材対策にしかならないからだ。

介護難民が生じないための介護人材確保を考えると、日本人の若者たちの中で、介護の職業に就きたいと思う人たちをもっと増やす対策が必要不可欠である。それを阻害しているのが、高校の進路指導の在り方である。介護福祉士養成校に入学して通うための奨学金がいくら充実し、返済の必要もないからといっても、養成校を卒業した後に就職した後に、将来に不安のない収入が得られないとして、介護福祉士の仕事がいまだに、「将来性のない仕事」であるというレッテルを張られ、進路指導の担当教員が、介護福祉士養成校に入学する学生に対し、考えを変えて進路を選びなおすように指導されている。その状況が変わらないと、日本の介護人材確保策は実効性のないものとならざるを得ない。この状況を変えるためには、介護労働で得られる収入を改善して、介護職員という職業に将来性がないというイメージを払拭せねばならない。

本年10月から実施される、政府パッケージによる介護福祉士の月額8万円の給与改善策は、その切り札になるだろうか?介護職員の給与は全産業平均と比較すると月額8万円低いと言われているので、政府パッケージによりこの差はなくなるわけである。しかも介護職員の多数派である女性だけを取り上げれば、現在全産業平均との差額は−2万円だから、むしろ全産業平均給与より月額6万円高くなるわけである。

そうであれば、このことは介護福祉士を目指そうとする学生が増える動機にもなるし、他産業の他職種から介護福祉士を目指そうとする動機づけにもなりそうなものである。しかしこの月額給与改善8万円というものは、1事業所で10年以上継続勤務している介護福祉士がベースになっているもので、介護福祉士養成校の来春卒業者が、介護事業者に就業した途端に、現在より8万円多い給料が保障されるものではない。他産業からの転職者も、転職先で10年以上働いてやっとそのベースに達するのに過ぎない。しかも就業途中で、別な事業者に転職した人は、転職した年からさらに10年かけて、政府パッケージのベースに達するというもので、案外気の遠くなるような給与改善策であると言えるのではないだろうか。そう考えるとこの政府パッケージは、現在介護職員として就業している人が、その事業所で働き続けるという動機づけに結びつき、介護職員の定着率の向上には結びつくであろうが、このことで介護福祉士を目指そうという若者が増えるかといえば、首をかしげざるを得ない。

修学資金貸付制度も、政府パッケージによる給与改善策にも、どちらも人材対策としてある程度の機能は果たすと評価しても良いだろうが、このことで人材確保に結びついて、将来に不安のない状態で介護サービスが国民全体に提供できることにはならない。もっともっと対策が必要なのである。

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