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第342回 新年から「サイバー戦争」の憂鬱

2015/01/05

北朝鮮の独裁者をパロディー仕立てにしたコメディー映画をめぐって米国ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)に仕掛けられたサイバー攻撃は、歴史的にきわめて深刻な傷跡を残した。米国政府はこれを重大な言論・表現の自由への脅威として、攻撃犯を北朝鮮指導部と指摘して報復措置をとることを表明した。北朝鮮は攻撃に関与していないと弁明しているが、SPEに対して、この映画を公開すれば悲惨な事態が起こることを覚悟しろと上映中止を強硬に要求していたので、いまさら、サイバー攻撃に関与していないと弁明しても説得力に欠ける。

その後、北朝鮮国内ではインターネットが不安定になって、長時間、北朝鮮とはインターネットでの情報交換が不能になるなど異変が起きている。これを米国の報復が始まったと推測する向きもあるが、大勢は、北朝鮮のインターネットの窓口となっている中国が遮断したのではないかという観測を支持している。北朝鮮自身がインターネット利用を妨害しているなど諸説が飛び交っているが、どの説が真実かどうかはともかく、一連の混乱は、インターネット空間での交戦が始まった、ということを示唆していることが重要である。

「サイバー戦争」の火ぶたが切って落とされたということである。

これが局地戦で収束するのか、はたまた、全面戦争にまで拡大するのかは、予断を許さない。2015年の新年は、平和と繁栄をもたらしてきたインターネットの普及が、一転して激しい火花を散らす戦争状況を招く舞台に変わるのか、固唾をのんで見守る、緊張の幕開けとなりそうである。

特に日本企業にとって深刻に考えなければならないのは、いともたやすく、企業の情報システムがサイバー攻撃でダメージを受けたことだ。狙われれば個々の企業ではサイバー攻撃を防ぎ切れない事実が白日の下にさらされた。今後、情報システムをサイバー攻撃から守るにはどうしたら良いのか。それも国境の外からミサイルで攻撃するように強力な打撃をシステムに与えるのである。しかも、国は、これを守ってくれる可能性がない。

国民の生命・財産を守るのは国家の責務である。リアル空間のミサイル攻撃は対ミサイル防衛網を敷いて防ぐ努力をしてくれるかもしれない。しかし、国境を越えて攻めて来るサイバー攻撃に対しては、国は、国民も企業も、守るだけの準備も、その能力もない。

2014年11月にサイバーセキュリティ基本法は成立したが、これは国のシステムを守ることに主眼が置かれている。同様のリスクに直面している民間企業の情報システムは、これは自助努力で防衛する以外ない。SPEの事件で、サイバー攻撃によって企業の情報システムが簡単に崩壊させられる危険があることが分かった。これまでの情報セキュリティがいかに甘いものであったかを嫌というほど思い知らされた。

「戦争」状況では、国家が国民の生命や財産、企業の財産を守るべく行動する。しかし、いま始まった「サイバー戦争」は、国家は国民の財産、企業の財産を守る余裕がない。重要な情報は企業自ら、国民自らが守らなければならない。

インターネット社会の便利さ、効用を十分に味わいつくしているわれわれには辛いところだが、インターネットを安全で有効に活用する領域と、インターネット利用をあきらめるべき領域を見極めて、大胆に「インターネット疎開地」を設定し、インターネットを使わない特別空間を創造すべきかもしれない。

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