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第346回 歩みののろい放送のデジタル化

2015/03/02

筆者が日本経済新聞記者として「マルチメディアの未来」などの記事を書いていたのは1990年前後だったから、25年も前になる。当時のマルチメディアの考え方は、テレビ放送と電話を含めた通信、そしてパソコンが1つの端末、1つの回線に融合するということだった。インターネットの登場で、あっさりとそれを実現するインフラと技術が整った。放送と通信はインターネットに吸収される。その技術的条件は整った。

それにも関わらず、放送のインターネットへの歩みは驚くほどのろい。

新聞報道によると、NHKは4月にも放送番組のインターネット配信を試験的に始める、とのことだ。総務省が2月16日付で実施基準を認可し、「ゴーサインを出した」という。10年前の記事かと見間違えそうだが、何度確かめても、2015年2月の新聞である。

インターネット動画サービス会社が登場して、生放送番組を提供している。独自のアングルでこれまでのNHKや民放では制作できなかったユニークな番組が多い。制作コストや配信コストが極端に安くなったので、従来の放送番組に比べて極端に視聴者の少ない番組でも平気で作れるのだろう。

いわんや、NHKや民間放送のテレビ局に、技術的にも、資金的にも、インターネットで番組を提供できないはずはない。

その歩みののろさの原因は、規制のカベである。

NHKがインターネットで番組を提供するのには、民放テレビの頑強な反対があった。豊富な資金力や人材を抱えるNHKと競争するには、NHK側に手かせ、足かせをはめなければならない。民放側から「公平な競争ができない」と悲鳴が上がった。2000年代のブロードバンド環境の普及で、技術的、インフラ的制約はなくなった。それからざっと15年。手かせ足かせをはめた民放側では、この時間を使ってインターネットを活用した十分なサービスを編み出したかというと、とてもそうは思えない。無駄に浪費した15年間だった。

むしろNHKの方が、リアルタイムの放送ができないならば、と過去の評判番組や見逃がした番組を録画で提供する「オンデマンド」サービスに乗りだして、民放を突き放した感がある。民放も遅ればせに同様のサービスを始めているが、NHKに手かせ足かせをはめた意味は何だったのか、という残念な思いがする。

世界の放送局はとっくの昔にインターネットの動画提供サービスと連携を始めるなど、着々と変容を遂げている。国内の狭い市場での既得権にこだわって規制を強めるばかりだったために、日本の放送サービスは大きく時代に遅れてしまったのではないか。

翻って見渡してみると、放送だけではない。日本国内には世界のデジタル化の趨勢に大きく出遅れてしまった分野が多数ある。NHKがやっと4月からインターネットを使う「試験放送」を始めることに、総務省が認可を下ろした、というニュースに触れて、日本のデジタル化を遅らせるネックになっているのは何なのか、改めて考えさせられた。

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