HOME > U+(ユープラス) > 奇論・暴論 > 第239回 日経新聞電子版有料読者10万人
2010/12/20
日本経済新聞の電子版が3月末にスタート、さらにその有料版が今年5月に始まったが、日本経済新聞社は、12月10日に有料版の契約者が10万人を突破したという発表をした。かつて日経新聞に在籍し、新聞社内部で「電子新聞」のアイデアを議論してきた者としては複雑な思いがある。
1つは、電子新聞はネット経由で直接、読者に届くので、既存の販売店ルートの役割を低下させる懸念がある。あまり急激に読者の「ネット」への移行が起こると、販売店ルートの採算を悪化させるので、ネットの普及速度は慎重でなければならない。日経新聞社はこのコントロールに今のところ成功しているように見える。アクセルとブレーキを踏みながらの販売促進の苦労は並大抵ではないだろう。
2つ目は、今後の課題になるだろうが、動画が少ない。テレビ放送局をグループに持つ「総合力」によって、動画のミックスをかつては構想していた。しかし、今のところ、その傾向は見られない。現在の「紙の新聞の電子化」、だけではなく、ネットワークの機能を駆使した「マルチメディア」への発展が待たれる。ユーチューブなど、無料で見られるサイトでの充実ぶりが目立つので、こうした機能に負けない魅力あるコンテンツが望まれる。
3つ目は端末の対応である。パソコン、スマートフォン、アイパッドなどの画面の大きな多機能端末など、次々と出てくる端末への対応はめまぐるしい。紙の新聞を読むよりも目や手の動きなどに負担なく読めるようにするには、どうすれば良いのか。音声にしてニュースを聞くというのはすでに試みられているが、音声は読みたい情報に飛んでゆくのに適していない。一覧性の点では、目で見る方法が格段に優れている。快適な端末はどういうものか、しばらく模索が続くのだろう。実際、電子書籍端末、スマートフォンなどでは、現在、熾烈な「ユーザーインタフェース」の性能の競い合いが起きている。読者を獲得するにはきわめて重要な事だが、その分、システムを開発する新聞社の技術陣の苦労は増大する。
ともあれ、すでに電子化への扉は開かれた。ネットで有料の新聞や書籍を購入するのが当たり前の世界はすぐそこに来ている。