HOME > U+(ユープラス) > 奇論・暴論 > 第242回 沖縄GIXとアジアの時代〜〜道州制はどこへ行ったのか?
2011/01/31
「普天間問題」のこう着状況を打破するヒントになるかどうか。すっかり影が失せてしまったが、「道州制」の議論は「沖縄」と「日本」の関係を考えるは良いチャンスだった。「道州制」の議論の中では、変転はあったものの、沖縄は「九州」の一部ではなく、「沖縄道(?)」として独立色の強い地域として再構築されるという方向が濃厚だった。その中で米軍基地の取り扱いもパッケージとして再定義される、ということで、一から出直したらどうか、と思うのだが、これも努力を必要とする事だ。
しかし、道州制は、いろいろな意味で価値のある地域自立の方策である。地域の歴史を掘り起こして地域の再定義をし、日本の中でどのような役割を果たすのか、価値の源泉を発見する手段になる。沖縄でいえば、かつて、アジアの経済の中心が東京にあった頃、沖縄はその東京からは遠く西のはずれで、重要性は感じられなかった。ところが米国はここに軍事基地を集中させ、日本にある米軍基地の面積の74%を占めるが、経済だけでなく、東アジア全体を眺めれば、沖縄がその中心に位置していると認識しているからだと考えられる。今日の兵器の発達を考えれば、必ずしもかつてほど、基地の集中の必要性はないにしても、縮小することはあっても、沖縄全体から大幅に撤退することは軍事的に考えにくいだろう。
軍事的にみて東アジアの中心に近い有利な位置にある沖縄は、東アジアが爆発的に経済発展し、世界経済地図が大きく塗り替わる中で、経済の面で、再び地理的な優位性が注目されようとしている。この10年近くで内地から沖縄に進出してきた日本企業は200社を超える。このほとんどは沖縄県の人件費の低廉さや補助金や税控除などの優遇策が魅力だったが、この1、2年、アジアの市場をにらんで前線基地として沖縄に拠点を検討する企業が目につくようになってきた。
特に、ITを基盤に、この動きが目立つ。安藤証券の沖縄データセンターは、当初は内地のバックアップセンターとして開設してきたが、稼働1年以上経過して、アジア経済の急成長を目の前にして、アジアへの前線基地として再認識している。グローバル企業でも、アジアのセンターの一つとして沖縄にデータセンターを置く企業も現れた。クレジットカード決済のTSYSは急拡大するアジア市場のセンターとして、中国よりも先に、沖縄にデータセンターを開設した。米国金融業界、インドのソフト企業と、相次いで沖縄にIT事業拠点を設置し始めた。
さらに、沖縄では県が後押しし、民間企業がリードするアジア直結の高速インターネットサービスの「沖縄GIX」が昨年末からスタートした。沖縄は通信の東アジアのセンターに位置して、米国からの太平洋ケーブル、東京へのケーブル、宮崎へのケーブルのほか、韓国、上海、台湾、香港などと国際通信海底ケーブルで結ばれ、中継基地になっている。「沖縄GIX」は当初、これらのケーブルのうち、沖縄−香港の回線を借りてインターネット接続し、アジア向けの高速インターネットサービスを提供する、という事業だ。沖縄にデータセンターやネットワークの運営拠点を置く事でこのメリットを活かせる金融・証券・流通・製造業などへ提供するほか、アジア事業を迅速に展開できるように香港のアドレスを利用するレンタルサーバーも提供して、内地の中小、ベンチャー企業のグローバル事業のサポートも推進する考えだ。
第2次大戦後、日本は欧米に依存した経済復興を目指してきたため、アジア各国との関係は相対的に軽く、軍事的な側面だけが認識されていたが、今や状況は一変した、と考えるのが正しい見方だろう。「道州制」は地域の特性に合わせた政策の展開を可能にする。沖縄は「道州制」が実現するのを待たずに、新しい国際的役割をにらんで新しい地域づくりの道へ歩み始めている。政治の混乱を乗り越えて、早く、新しい時代の扉を開けて欲しいものである。