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第248回 空白の2か月を経て海外事業展開の危機を見た

2011/05/10

大災害の3月11日で時計が止まってしまっていたが、ゴールデンウィークを経て、鉛のような重い塊を胸に抱きながらではあるが、再びゆっくりと時が刻まれ始めた感がある。休み明けにオフィスに戻ったビジネスパーソンも、延び延びになっていた新学期が始まった首都圏の大学の学生もようやく明日を見ながら活動を再開しているようだ。

震災を機に周囲からの強制で始めさせられたツイッターの話題も未来に向けた言葉が急に目立ってきた。テレビの番組も震災で延期になっていたテーマが次々と放映され始めている。そこで実感するのは、日本列島が大津波と福島原発に時間も人も、心も奪われている間にも、世界が激しい変化を続けていたことだ。中東情勢は一段と緊迫し、同時多発テロの司令塔のビンラディンが射殺されてみると、今年9月の「9.11」10周年を期して米国で鉄道破壊のテロ計画が進行していたらしい。

テレビ番組で最も衝撃を受けたのは中国に進出していた日本の製造業の窮迫である。年率30%の賃金上昇で悪化した経営業績をさらに追い込む大幅な賃上げを飲まざるを得なくなったというレポートである。中国経済が年率10%近い成長を続ける中で物価も上昇し、生活レベルも上がった。中国政府は5年間で最低賃金を2倍に上昇させることを発表しているが、産業の最前線ではもっと速い賃金上昇が進んでいる。

これまでのような劣悪な住環境や作業環境では我慢もできない。賃金が上がらなければ転職も辞さない構えである。実際に、せっかく技術を習得した従業員が次々と職場を離れてゆく。日本の本社から見れば、人件費が安いことを前提に進出したのだから、高賃金では中国進出の意味が失せる。中国の従業員にとっては、安く働かせて利益を上げるのは日本企業の横暴に見えてくる。かつては雇用機会の創出を感謝していたのが、一転、「収奪」という批判に変わる。生産性を上げるために新鋭機械の投資を進めることで脱却を試みる企業もあるようだが、それで行き詰まれば、結局、ただ同然で現地企業に譲り渡すシナリオも見えてくるのではないか。

安い労働資源を求めて海外進出する「資源獲得」の事業展開は限界にきているのではないか。優秀な労働力を求めるなら、日本国内に豊富に隠れている。不幸にして大災害で、また豊富な優秀な働き手が産業界の前に出現してきた。その雇用機会の提供も前提にもう一度企業の事業展開を内外ながめて練り直す機会が来たのではないだろうか。2か月の空白を経て、海外で起きている新たな現象に触れて、思い切り頭を洗い直さなければならないのではないか。

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