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第249回 災害支援の基本は住民情報

2011/05/23

兵庫県西宮市は筆者が日経新聞記者時代から、先進的に情報システムを利用している自治体として注目されてきた。東日本大震災を経験して、改めて西宮市は情報システムを災害者支援のために有効に利用するノウハウを蓄えた先進自治体であることを認識させられた。情報化推進国民会議(児玉幸治委員長)の本委員会が19日に開催されたが、この席で西宮市CIO補佐官兼情報センター長、吉田稔氏が講演し、深い感銘を受けた。

阪神・淡路大震災で西宮市は市庁舎の上層部が崩壊するなど、大きなダメージを受けながら、住民の安全確認、避難情報、避難所の食料、飲料水など物資の配給状況、義捐金、支援金の配布、仮設住宅への移転など、複雑な災害対応業務をこなして住民の災害からの立ち直りを支えてきた。死者1000人を超え、最も震災の被害を受けた阪神地区の自治体である。市の人口は震災前の42万人が減少し一時は38万人まで急速に落ち込んだが、その後、復興とともに人口が戻り始めて、現在は48万人と、震災前をはるかに上回る都市へと完全に復興を果たした。

その復興のキーになったのが、西宮市が震災の中で必要に応じて独自に工夫して構築した情報システムである。その出発は住民基本情報である。個々の住民の安否から避難先、入院先などのデータ、被災状況を日々、時間の流れと競争しながら入力し、必要な時にすぐに出力して救援業務、支援業務を速やかに行う道具とするのである。住民情報が、単に、住居の情報を記録しているだけなら、全く役に立たない。個々の住民がどのような要求をもっているかを日常から他の情報とリンクして活用していたからこそ、災害時に、このシステムが活きたのだという。被災者は、住民だけとは限らない。旅行中、観光客として滞在中に被災することもあれば、市内を交通機関で通過中に被災して避難所に入っている人もいる。住民情報からのリストを迅速に作成した後は、避難所の情報を収集しながら、こうした被災者のリストを加えてゆく作業も徹底した。

「被災者支援システム」「避難所関連システム」「緊急物資管理システム」「仮設住宅管理システム」「犠牲者・遺族管理システム」「倒壊家屋管理システム」「復旧・復興関連システム」などにまとめられ、利用しやすく整理されている。

西宮市はこれを全国の自治体が無料で利用できるようにLASDECのリストに登録して公開している。それが、東日本大震災後、各地の自治体が災害に備えるための情報システムとして、にわかに注目され、今後、急速に利用自治体が増加しそうな気配である。すでに70以上の機関、自治体などから照会があり、いくつかの自治体では具体的に導入しようという動きが始まっているようだ。

吉田氏はすべての災害対応策は住民情報が基礎になるということを強調し、この情報を普段から有効に活用できる横断的な情報管理の仕組みができていなければ、災害時に自治体は住民を守りきることはできない、と強調した。大災害を経験して、早急に、事前の準備を急ぐべきだという思いを改めて強くした。

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