HOME > U+(ユープラス) > 奇論・暴論 > 第253回 再生可能エネルギー「全量買い取り制度」の残る問題
2011/07/19
菅首相の最後の仕事になるのか――再生可能エネルギー全量買い取り法案が本格的な議論になっているが、問題の本質がきちんと議論されているのか。問題の焦点はそのコストアップ分を電力事業者が利用者の料金に上乗せできる仕組みである。議論も「電力コストが上がれば産業は安い電力を求めて海外に進出して空洞化を招く」「結局は一般消費者の電力料金の上昇を招く」などという感情論が目につく。
しかし、一般家庭や産業界に前提条件なしに「電力料金が上がっても良いですか」と聞かれたら、「冗談じゃない」と答えるのが当然だろう。逆に「地球温暖化防止対策のために再生可能エネルギーの比率を高める緊急の必要があって、そのためには、電力会社も負担するとともに一時的に国民の負担も不可欠」という事情を的確に提示すれば、国民の合意形成が進むことも考えられる。
地球環境の対策が必要だということは、すでに国民は十分に承知している。その手段の一つだと言われた原子力発電は、安全ではない、ということが、今回、骨身にしみて理解できた。再生可能エネルギーの開発が緊急に必要だということだ。後は、どういう条件でなら、緊急事態の対策を引き受けるかである。
産業競争力が落ちて日本の産業空洞化を招く、などという意見は噴飯ものである。為替による円高の方がもっと深刻なので、電力料金一つが問題なのではない。装置産業や十分な施設を必要とする産業が電力料金だけで海外に流出する、とすれば、その企業の経営者の資質を問わなければならない。もちろん、企業のコストが上がることはだれでも嫌だが、それは絶対的ではない。事情が理解できれば、経費増は受け入れる覚悟がある。企業の社会的責任というものだ。
「消費者にしわ寄せする」などというのも呆れた意見だ。繰り返すが、日本のエネルギーの根幹を再生エネルギーに切り換える構造の大転換である。一時的に負担があるのは我慢せざるを得ない。地球環境に配慮し、原子力発電所に頼らない安全な新しい日本社会を構築するためならば、つまり、目的が明確な一時的な負担は納得してくれるだろう。これを機会に節電に努めれば、かえって、家計に対する電力料金の負担はかえって減少することもできる。
情報通信技術を基盤にした、より、効率の良いエネルギー社会「スマートソサエティ」が構築できれば、産業も家庭も、経費に占める電力支出を減少させる結果にもなる。一時的なコスト増は乗り越えられるハードルである。
ただし、この法案に問題があるのは、「公平感」の欠如である。一時的に産業界も家庭もコスト増を余儀なくされるかもしれないが、当の電力会社は、負担増を利用者にそのまま転嫁して、損を被らない可能性がある。また、この制度を目当てに再生エネルギー事業に乗り出して大きな利潤を得る企業が出てくることだ。利益がなければ投資をする事業家も出てこないので再生エネルギーの開発が進まないが、それにしても、結局はユーザーが負担するのだから、ユーザーの負担を事業家が丸ごと奪う結果になるのではないか。緊急の負担は「三方一両損」を覚悟すべきなのが、一人だけもうけるのでは、不公平感を禁じ得ない。この点をきちんと整備してくれないと、結局はだれかの大儲けに利用されるだけではないか。それが最も大きな違和感である。