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第263回 不合理な制度と電子行政

2011/12/12

電子行政をいかに推進するか――2002年の住基ネットの第一次稼働から10年近く。日本の電子行政がスタートを切ったつもりが、これまでその歩みはのろく、「空白の10年」を経過して切歯扼腕の思いの関係者も多いに違いない。筆者もその一人である。怒りを抑えながら、ここしばらくの税と年金、保険の情報処理を一体化して進め、その基盤として国民IDも一挙に広めようという機運が盛り上がって来たのを歓迎し、「今度こそ、国際的に圧倒的に出遅れた電子行政を前進させよう」と関係者の間で議論を再開している。

ところが、電子行政を推進する上でのネックが新たにたくさん浮上してきた。

自治体の情報システム担当者の意見を聞くと、たとえば「世帯」の定義が業務の間で異なっていることが「世帯」と「個人」の扱いで制度上の矛盾を抱え、かつ、システム連係の壁になっているそうだ。税、年金、国保、介護保険などで顕著に表れている。たとえば、国保は世帯全員の金額が世帯主に請求される。ところがすでに退職して年金生活している世帯主がすでに働いて収入を得ている子供の分の請求を受ける。パート勤めで所得が高額になった妻の分も、年金生活者になった夫に請求される。家族仲、夫婦仲が良くないと、激しいクレームが寄せられる。その他、もろもろの問題を抱え、電子化すれば効率よい行政が実現するというのは楽観的すぎる。

さらに戸籍の苗字の「外字」問題を議論して、外字を認めている現在の仕組みが市町村の業務遂行を阻害し、システム連係を難しくしているか、も再度、重大事項として浮上した。「外字を一切認めないように法律で決めて排除する」「使える外字を例示して絞り込むべきだ」「外字を使う人はシステムコストを上昇させているので手数料をとるべきだ」などの議論百出だ。

ところが、戸籍があるのは日本、台湾、韓国くらいで、世界的には戸籍制度があるのが珍しいという意見が出た。台湾も韓国も日本統治時代の名残だが、韓国はさっさと戸籍制度をなくした。世界では戸籍がなくても不便がないではないか。とすると、何のために戸籍制度を維持しているのか。戦前は徴兵の際に必要だった。しかし徴兵制のない現在では、どうも相続の際に、親族関係を確定する、というのが唯一の使い道ではないのか、ということになった。他の主要国では出生届をキーにして相続関係を確定しているそうだが、確かに、戸籍制度に比べれば面倒である。ただ、そのために膨大な数の職員を配置して登録事務や保管をしているほどのものか、と根源的な議論に発展した。

現在ある行政事務を電子化するだけでなく、電子化の際に、その事務の目的と効果、場合によっては民間委託に移すなど、現在ある行政事務の再評価も必要ではないか。第一弾が、「戸籍無用論」である。猛烈な反対意見が出てくることが予想されるが、支払っているコストに比べて、国民が得るメリットが小さすぎるのではないか。現在ある制度を単純に電子化するのでは、この国の行政コストは高いままである。本当に必要なところに税金を回すために、必要性の乏しくなった制度は根源的に見直すべきではないか。

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