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第273回 「ノマド型」というワークスタイル

2012/05/07

ネットワークが発達して様々なビジネスやワークスタイルが登場しているが、「ノマド」も注目すべきワークスタイルである。1つの企業や組織に属さないで仕事をし、仕事をする場所も固定的でなく自由に移動する。「ノマド」は「遊牧民」という意味だそうである。

かつては、ソフトウェア技術者に最もなじみやすいワークスタイルである。ある技術を習得すると、企業内部では時期によって必ずしも適当な業務が回ってこないが、別の企業やプロジェクトには求められている、という状況が頻繁に訪れる。企業の中で遊休状態にあるか、あるいは便宜的に気に染まない仕事に携わらされているよりは、独立して個人事業主になることで仕事をする技術者が増大した。

20年前からこの状況は広がったが、ただ、これは「ノマド」にはなっていない。当時のネットワーク環境は現在に比べれば貧弱で、多くの契約先をもった個人事業主も、仕事場は契約先か、あるいは自宅や個人オフィスで今日ほどの自由度はない。

今日のノマドは、多様な契約相手から仕事を請け負うだけでなく、その作業場所も自由度が高い。無線サービスを利用してセキリュリティを確保しながら、携帯電話会社や無線LANのサービスを使えるところならどこでも作業できる。請負先の事業所や自宅以外の場所で、たとえば、その目的で続々と誕生している「シェアオフィス」や喫茶店、レストラン、ネットカフェ、図書館など、外出中に最も都合の良い場所で作業をしてゆく。この働く場所の自由度は、「ノマド」の必要条件である。

そのワークスタイルは、福島原発事故に伴う電力不足をきっかけに一気に広がった。対応策として東京電力管内の多くの企業で「在宅型勤務」を採用したのである。今回はコンピューター技術者だけではない。営業職、保守サービス技術者のほか、経理、人事、総務などの経営・管理部門も自宅のパソコンからネットを通じて会社のサーバーにアクセスして業務をこなした。電力不足から、最初はやむを得ず、未知の在宅型勤務をしてみたが、試してみると、考えは変わった。これで十分に業務はこなせる。

これまでのようにエネルギーを消費しながら遠隔地から都心のオフィスに通勤するのは無駄ではないか。オフィスに人が集中することによる電力コスト増も無意味である。その中で「契約先」が多数の個人事業主でなくても、業務場所が自由な働き方が可能ではないか。ということで企業の側では従業員に、企業への忠誠心は維持しながら、業務を行う場所を自由にする新しい「ノマド型」勤務スタイルを考慮し始めた。スマホの急速な普及によって不足した携帯電話の回線容量を補うために、無線LANの基地局設置が加速される。

高度なネットワーク環境がなければ考えられなかったが、今は、考えられる。つまり、自由にどこでも作業ができる「ノマド型」環境が急速に整備されつつある。この夏は、昨年夏に経験した在宅型業務が生きてくる。どこで業務をこなしているのかは問わない。成果だけが重要なのである。さらに、所定の業務目標を達成するなら、一定のルールを課しての下ではあるが、従業員の企業外業務委託を引き受ける勤務形態を認める、という新しい就業形態を検討しても良いのではいないか。他からの副収入があるとなれば、企業としても本業の給料水準にこだわらなくても良くなるし、従業員の側では、複数の相手先に自らの能力を基にした業務を処理し、他の契約先に業務を提供する。これまで従事していた企業に拘束されることはなく、能力に応じて収入を増やすこともできる。「ノマド型」ワークスタイルが最適なものとして検討される余地が十分にある。

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