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第276回 人間の運動能力の進化

2012/06/18

6月19日火曜日のテレビ東京系「ガイアの夜明け」ではロンドンオリンピックに向けて、運動用具メーカーと選手とが一体となって脚力をサポートする用具を開発する、し烈な舞台裏の競争を放送するが、その事前予告版、筆者が監修する日経新聞「キーワードで読むガイアの夜明け」(17日朝刊)では、男子100メートルの記録の推移を点検してみた。

驚いたことに男子100メートルの世界記録は、最初に公認した1912年の10秒6から今日までにおよそ1秒も短縮した。現在の世界記録は3年前にジャマイカのボルト選手が出した9秒58である。1912年はストップウオッチによる手動計時で、64年からは手動と電動計時の併用、77年から電動に一本化された。現在は100分の1秒単位で計測される。

手動の記録は実際より早くなる。スタートでは計測員はスターターのピストルの発射を見てストップウオッチを押すので、目から脳を経て指まで神経を伝って信号を送るのに0.1秒〜0.3秒の遅れが出る。ゴールでは目で見ながらゴールインに合わせて正確にストップウオッチを押せるので、手動での時間が実際より短くなるのである。それに対して電動ではスターターのピストルの発射とともに時計が動き出してゴールとともに止まる。選手は発射音を耳で聞いて神経を伝って脳に伝わり、さらに手や足に指令が行くのに、信号の遅れが生じる。ピストルが発射されてから走り出すのには時間がかかる。時計はピストルと連動して動くので、記録は悪くなる。

従って、現在の9秒58の世界記録は、手動で計測すれば9秒4や9秒3になっているかもしれない。この100年で1秒縮まったと言っても、手動と電動を勘案すれば、その短縮時間はもっと大きいのである。

もちろん、靴やシャツ、パンツの素材やデザインが工夫された。グランドも靴でしっかり捉えられるようになった、というような外部の改善もあっただろうが、筋肉トレーニングやインターバルトレーニング、高地トレーニングなど、練習プログラムや食事による体質改善など、本質的に人間の運動能力を高める科学的な理論の進展もあった。つまり人間の隠れた運動能力をひき出すことに成功したのである。

運動能力でこのような能力向上をひき出せるなら、人間の頭脳のトレーニングもまだ余地がある。世界のどこかでは、道具としてコンピューターを使って頭脳や感性に刺激を加えながら、人間の感性を磨き、知恵を向上させる仕組みが着々と開発されているに違いない。100年間で1秒、などの数値での計測は難しいかも知れないが、頭脳の分野での進化の程度も測ってみたい気がする。

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