HOME > U+(ユープラス) > 奇論・暴論 > 第284回 グローバル市場に挑戦するか日本通信産業
2012/10/15
すでにモバイル市場の大プレーヤーになったが、このところソフトバンクがさらに巨大化しようと大胆な施策を相次いで打ち出し、業界関係者は度肝をぬかれている。筆者もその一人である。
イー・アクセスの買収(統合)は、ソフトバンクが利用できる周波数帯の容量が少なくなって、サービス品質が落ちてきたのを挽回するための周波数確保が狙いだろうと見られている。国内の大競争を勝ち抜くには苦肉の統合だと指摘する向きが多いが、イー・アクセスへの批判も起きている。総務省から割り当てられた電波の利用枠を、巨額の有償で勝手に競合会社に売り渡すのは疑問である、というものだ。そういうことなら、一度、総務省に枠を返上して、再度、入札にすべきではないか、という筋論も出ている。もちろん、現に利用している周波数帯を返上するなどということは非現実的だが、競合会社には割り切れないものがあるだろう。
しかし、こういう話題を吹き飛ばすようなニュースが、追いかけて、飛び込んできた。ソフトバンクが米国第3位の携帯電話会社、スプリント・ネクステルを買収するための交渉を進めている、というのである。これに成功すれば、イー・アクセスのユーザーの取り込み、スプリント・ネクステルのユーザーの取り込みで、ソフトバンクのユーザーベースは1億件程度は増加する。その投資額は周辺の費用も併せてざっと2兆円に及ぶという。
確かに、日本の携帯電話市場はそろそろ成熟期に入っている。このままでは市場の拡大が止まるが、その勢いを維持する対応策の一つが機能強化で、まず商品をスマートフォンに切り換えて、端末の一台当たりの単価を上げ、その利用回線料も引き上げて市場を膨らませる戦略は着々と講じられている。
その先はアプリケーションや利用シーンの拡大などだと思っていたが、グローバル化もその大きな方向である。古くから米国のIT関連企業を次々に買収してきたソフトバンクは、経験の少ない他の通信会社に比べて、海外市場を十分にオペレーションする能力はあるだろう。イー・アクセスの買収は、「グローバルに飛躍するための経営基盤の拡大」という観点から見ると、また別の視点が見えてくる。人口が減り始め、さまざまな市場が縮小してゆくのは日本の「確実な未来」のように思える。
その打開策の最重点はグローバル市場の開拓である。
そういう国家的課題に打って出るのと時を同じくして批判が出そうな国内企業の買収を行う。国家的課題の大きさに比べて、国内的問題はスケールが小さくて、問題に取り上げにくくなる。こういうタイミングを演出するのも、ソフトバンクの巧みさのように思えるが、こういう度胸と鉄面皮がなければ、グローバル競争に勝ち抜いてゆくことは難しいのかもしれない。
改めて、日本経済、日本の情報通信産業は、大きな変革期に差し掛かっている、という感を深くさせられる。