HOME > U+(ユープラス) > 奇論・暴論 > 第285回 ケータイ会社買収劇に異論が登場
2012/10/29
前回の本コラムでソフトバンクのイー・アクセス社の買収の件を取り上げたが、その中で「総務省から割り当てられた電波の利用枠を、(イー・アクセスがソフトバンクに)巨額の有償で勝手に売り渡すのは疑問である、という(批判が出ている)」「一度、総務省に枠を返上して、再度、入札にすべきではないか(という主張だ)」と記したが、情報通信関係者の間では、もう少し、本格的な議論になっている。
最も強く批判を展開しているのは鬼木甫・大阪大学名誉教授だ。かねて「周波数の割り当てには市場価値を反映させたオークション方式を導入すべきだ」と論陣を張って来た。情報通信分野で制度論を展開する経済学者である。
その批判の骨子は、(1)ソフトバンクが900MHz帯免許、NTTドコモ、KDDI、イー・アクセスの3社が700MHz帯の割り当てを受けたのは今年に入ってからだが、半年も経たない間にソフトバンクがイー・アクセスを買収して、大量の周波数を手に入れたのでは、わざわざ4社に割り当てた意味がなく、寡占を招くのではないか、(2)OECD加盟30ヵ国で電波オークションが導入され、同制度を導入していないのはアイスランドとルクセンブルグ、日本の3国だけで、日本は大幅に遅れている、(3) 携帯電話事業者に割り当てられたプレミアム帯の価値は兆円単位に及ぶが、オークション制度がないために割り当てで4社に権利が提供されたが、その割り当て直後にソフトバンクがイー・アクセス社を買収し「公平・公正原則に著しく反する」事態である、(4) 総務省は割り当て時に想定していた4社体制が3社に減少し、競争が十分に行われない可能性が出てきたので買収をストップすべきである――。
さらに、鬼木名誉教授は、今後携帯業界の寡占が進み、消費者・国民全体の利益を損なう恐れがある、として、市場競争の監視にあたる公正取引委員会は、今回の買収を調査し、その状況を公表するとともに、適切な処置をとるべきである、とも主張している。
確かに、本来、国民の共有財産だった電波が、国民のサービスに利用されることを前提にほぼ無償で事業者に割り当てられたのである。それを十分に国民にサービスを提供することもないうちに、巨額で「転売」するというのは、財政難で増税に迫れている国民としては割り切れないものを感じる。
こうした割り切れないことが数々と起こっているうちに、一部の企業家が巨額の富を蓄積し、多くの国民が生活に困窮する、という現在の状況が進行してきたような気がする。今回も、結果として一部の企業家が大きな富を手にした、という不公平感を確かに抱かせる事態ではある。この件については、少し、議論が必要かもしれない。