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第286回 日本の存続のためにデータセンターに望むこと

2012/11/12

最近、いくつかのデータセンターを見学する機会を得た。筆者は、総務省と一緒に研究会をもっているデータセンター促進協議会(村井純会長)の副会長を引き受けている。日本のデータセンターの「あるべき条件」の議論の渦の中にいるので、最先端のデータセンターには、なるほどと感心させられることも多いが、同時に、多少、違和感をもつこともあったことは否定できない。

最も大きな違和感は相変わらず、首都圏に新増設が目立つことだ。

激しい地震の揺れに対応して、最近では、耐震や制震に留まらず、地面と建造物の間に重層の厚いゴムの柱をかませて地震の揺れを逃す「免震」構造が主流である。激しい揺れもこの構造の上部では全く感じないので、ラックや機械の倒壊を防ぐことができる。それは良いのだが、だから「絶対安心」という強い自信を持っていることに違和感を持つのである。

停電に備えてジェット燃料による自家発電というのも常識。その燃料も72時間分、用意してある、というのも常識。ただし、東日本大震災時にはその72時間も危ういケースがあった。燃料の優先供給契約を結ぶのも常識だが、交通の大渋滞や油槽所、製油所の機能不全で契約を履行できないケースも予想される。いくら免震で施設は守れても、データセンター自体の操業は停止に追い込まれるリスクは依然としてなくならない。

同じような条件にある首都圏にデータセンターが集中していることは大きなリスクだ。

最近では富士山の噴火も視野に置かなくてはならなくなった。安政の大噴火の規模になれば、首都圏全体に大量の火山灰が降り注ぐことも考慮しなくてはならない。送電線のショートや空調の機能マヒなどで、首都圏全体のデータセンターが停止する最悪の事態も懸念される。

こうしたリスク回避には地方分散を急ぐことが重要であると思う。ある計算によると、日本のデータセンターの72%が首都圏に集中しているという。首都圏の72%が停止すると、仮にその他地域でバックアップするとしても、28%の能力では、とてもバックアップできず、被災していないその他地域も含めて日本全体の社会生活、企業活動、経済活動がマヒする。

個々のデータセンターをいくら頑丈にしても、巨大な自然災害が見舞えば、操業を確保することは難しい。重要なことは、停止することがありうるとして、停止した際にも他の地域で十分にバックアップできるように地方のデータセンター能力を増強することである。つまり、地方分散を進めて、少なくとも首都圏の集中率は3分の1以下に下げるべきである。

データセンター事業者の皆さんに聞くと、「ユーザーが近いところにある方が安心する」「集中している方がコスト安でユーザーのためになる」と顧客サービス優先だと回答が来る。しかし、これは「部分最適」の合計は「全体最適」を損なう、という「合成の誤謬」の典型的な事例だろう。個々の企業やユーザーの大災害が起きるまでの短期的な自社利益を優先した「部分最適」を皆が求めると、長期的には必ず起きる大災害による巨大な損失を回避して社会リスクを減らす「全体最適」を達成できない。結局、社会リスク、国家リスクを招く。全体の利益を損なう、そうした個々のユーザーの利己的要望は制度設計によって排除すべきだろう。たとえば、多額の税を課して、データセンターの首都圏からの「追い出し」を図るなど、力ずくででも地方分散を推し進めなければ、社会リスクはさらに大きくなる。

日本存続のために、データセンターは早急に地方分散を図るべきである。

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