HOME > U+(ユープラス) > 奇論・暴論 > 第313回 ビッグデータに取り組む覚悟
2013/11/25
JR東日本の「IC乗車券」、というよりも「電子マネー」としての存在価値が大きくなっている「Suica」の利用記録を「ビッグデータ」として各種マーケティング情報に解析利用できるように提供する、という発表が一部の人から批判を受けて、利用を延期する事件があった。運用方法によって、利用客の懸念を解消し、制度的にも問題ないようにするのは可能なので、できるだけ早く、そうしていただきたい。この一件で、顧客の取引データを大量に保有している企業から、2次利用目的にデータが提供される機運が下火になるかと心配したが、その後、ドコモやアマゾンなどといったところが適切な匿名処理をした上で保有するデータをマーケティング情報として第3者に提供する、という発表が続き、ほっとしている。
データは貯めて置くだけでは大した価値は生まない。過去の事柄を確認し、参考にする程度だ。しかし、ある程度以上の数量になって、かつ、それを分析するソフトウェアがそろってくれば、データは意味をもつ「情報」に変わる。
その情報が蓄積してきてその中から共通の法則性が発見されればそれは「知識」や「知見」と呼ばれる。データの量が多ければ、そこから生まれる「情報」の数も増大し、「情報量」が多ければその組み合わせで得られる「知識」や「知見」の数も増加するはずである。
最近になって「ビッグデータ」が注目されてきたのは「技術」だ。蓄積されている大量の情報を秩序ある形式に整理して加工・分析・処理する技術が発達してきたからである。大量のデータを高速に処理できるコンピューターパワーや構造がバラバラで無秩序なデータを整理して秩序ある利用しやすい形式に変換するソフトウェアなどの登場である。
見回せばそうした道具がなかったために放置してきたデータが膨大にある。これを利用価値のある「情報」や「知識」「知見」に変える。たとえば、GPSを通じて位置情報の変化をとらえて、モバイル端末を保有する人物や機械、あるいはペットなどの動物や家畜がA地点からB地点へ移動した「情報」として、他の情報と組み合わせれば、これまで気がつかなかった新しい現象を把握することができるはずだ。
よく言われるのは、東日本大震災の直後の道路状況の把握である。有力メーカーはプレミアム会員に各種サービスを提供する際に自動車搭載のナビシステムによって位置情報、移動情報をつかみ、適切な情報を選び出している。これが大量になると、どの地域で自動車がスムーズに流れ、どの道路で渋滞しているかが分かる。さらに、自動車がまったく動いていないところでは、道路が不通になっていると推測できる。1つ1つのデータでは意味が分からないが、膨大な量になると、役に立つ「情報」になるのである。
Suicaなどの取引を仲介することによって生じるデータは、統計的な処理を通じて匿名性を確保した上でも、他の情報との組み合わせによって役に立つ意味ある「情報」に生成することができる。JR東日本のシステムの中に眠らせて置くのはたいへんに惜しいデータである。社会を活性化させる機能をもつ、一種の「公共データ」ともいえる。高速処理できるコンピューターやソフトウェアなど、道具もそろってきた。ぜひとも、各所に眠るデータを役立てるべく、「ビッグデータ」として社会に提供してもらいたいものである。