HOME > U+(ユープラス) > 奇論・暴論 > 第334回 新「地方創生大臣」へのお願い
2014/09/16
大物の石破茂前自民党幹事長が新設の地方創生大臣に就任した。
政治・行政・経済・文化などのさまざまな社会資源が首都圏に集中して、日本列島は歴史始まって以来のいびつな形に変形してきている。この社会資源の一極集中は、大地震をはじめとした自然災害やテロ、伝染病の大流行などの惨事が発生したとき、壊滅的な状況になるリスクを抱えている。このリスク回避のために、首都機能の移転が検討されてから一体、どれほどの時間が経過したか。道州制の検討も途中までは勢い良かったが、今は、ぱたりと止まってしまった。大阪を第2首都とする「大阪都」の構想も、議論のピークは過ぎてしまった感がある。
本当にこのままで日本は存続できるのか。そういう不安を抱えたまま、首都機能分散、社会機能、経済機能の分散の「ヤマ」は一向に動こうとしない。
そこに今度の安倍改造内閣で、石破地方創生大臣の誕生である。
大いに、日本列島のいびつな構造改革のために、地方創生の政策を打ち出してもらいたい。大地震は秒読みで、残された時間は多くない。
特に情報産業は深刻である。情報社会での社会勝度、経済活動の根幹をなすデータセンターが首都圏に70%以上が集中している。ここで大地震が起きて、通信インフラや電力喪失、運用担当者たちのデータセンターへの通勤不能などの問題が生じて1割のセンターが運転休止に追い込まれれば、情報システム依存度が高まった日本社会の機能はマヒする。
とりわけ経済活動への影響は国内だけに止まらない。密接にリンクしたグローバルな経済活動にも重大な影響を及ぼすのは火を見るより明らかである。
なぜ、データセンターが首都圏に集中するのか。何かあったときにすぐ駆けつけられる場所にあった方が不安がない、という意見もある。しかし、これは無意味な不安である。何かあったときに決定的なダメージがないように、分散させるのである。何かない時はネットワークで遠隔監視する技術は十分に実用化している。
さらに聞いてゆくと本当の理由が見えてくる。それは首都圏に集中している方が、通信コストが大きく下げられる、という理由である。これは地方創生にとっても重大な問題である。つまり、長距離の通信料金が高すぎるというのが、データセンターの地方への分散が進まない原因である。企業は経済的な有利不利で意思決定してゆく。他の要因がなければもっとも収益力が高い方法を選ぶ。データセンターを地方に設置すると、通信料金が高すぎて、地価が高くても首都圏にあった方が収益力がある。だから、地方分散を検討しても、途中で断念してしまう。
経済原理で地方分散を進めるには、首都圏にある方がずっとコストが高いという状況を作りだすことである。かつて、米国の有力な都市は、工場排煙や排水で公害がひどくなったとき、市内の工場に高率の税をかけ、採算に合わないようにして市外に移転させた。追い出し税である。日本でも対策には多額の投資を必要とする厳しい公害規制をかけて工場を地域から追い出した地域もある。こうした制度の変更でも、経済的有利不利を動かすことができる。
ただ、追い出し税や追い出しのための規制強化は企業側の強い抵抗が出てくる。将来予想される危機の回避、ということでは、今日の利益を重視する経営者を説得するのは難しい。強い政治主導が可能な時しか有効ではないだろう。
もう一つは、地方への分散を誘導する優遇措置で、経済的な有利不利の状況を変えることである。財政のひっ迫しているときに、「将来予想される」という危機を回避するための財政支出することは、財政当局がなかなか認めないだろう。強い政治主導が可能な時しか、これも可能ではない。少なくとも、地方が高コストになる主要な要因である通信コストの大幅な低下ができれば、地方優遇措置に代えることができる。通信コスト低下のために財政出動することが政策効果が最も高いものではないか。
データセンターを例にして強い政治主導の必要性を論じたが、データセンターのみならず、地方創生のための産業振興、文化振興、教育振興、どれをとっても、基盤となる高速通信ネットワークが、今後、不可欠になる。通信コストが高ければ地方創生は難しい。石破新大臣には、地方創生の前提条件としていち早く、全国の通信ネットワークが距離に関わらず低廉に使えるような政策誘導をお願いしておきたい。