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第343回 「アノニマス」は正義の集団か悪の集団か

2015/01/19

パリの新聞社テロ事件をきっかけにサイバー世界ではハッカー集団「アノニマス」の行動が目を引いている。日本人には奇妙な名称だが、自ら名乗っている。「匿名の」という意味の英語の形容詞で、名前の通り、正体不明の謎の集団である。時折、特定のサイトに対して多数のハッカーが連動して集中的にサイバー攻撃を仕掛けてくる。

この「アノニマス」集団が今回のテロを計画したのはイスラム過激派のアルカイダとイスラム国であると断定して、そのサイトの機能やアドレスを使用不能にする攻撃を加えている。

インターネットを含めて徹底的に「言論の自由」を守る立場で主張を展開し、同集団が「言論の自由の敵」と認定する動きに対して抗議する意志を表明して、特定サイトを機能マヒに陥れる。今回のフランスのテロは「言論の自由」を真っ向から侵害するとして、その報復攻撃を敢行しているようだ。これだけだと、アノニマスは非人道的なイスラム過激派に立ち向かう正義の集団のように思える。しかし、これは「言論の自由」という目標がたまたま一致しているだけで、性格は大きく異なっていて、日常的なサイバー世界ではしばしば、アノニマスの行動は大きな脅威になる。

ネットワークで高い技術力を有するハッカー集団なので、防衛するのは極めて難しい。

日本では、知的所有権を侵すとして、違法ダウンロードを刑事罰化した際に、これに抗議して、財務省や自民党、音楽著作権協会などの公式サイトを攻撃したことがある。政府の機密文書を流出させた「ウィキリークス」の摘発に対して各国で摘発に抗議するサイバー攻撃を加えた。各国のポルノ規制でも「言論の自由」を侵すとして関連サイトが機能不全になるような攻撃を受けた。あらゆる「言論の自由」の保証を徹底的に要求する。

「言論の自由」のほかに、政治問題でも特定の立場を主張して、対立する陣営のサイトを攻撃する。その1つが「反原発」で、日本のサイトでは原発再稼働に抗議して特定のサイトが攻撃対象になったことがある。中東、北アフリカ各地で起きた民主化運動「アラブの春」に際しては、チュニジア政府やエジプト政府の情報統制に反対して両政府のサイトにサイバー攻撃を加えた。「反核」の立場も鮮明だ。北朝鮮の「人工衛星」打ち上げは核攻撃可能な「弾道ミサイル」発射と非難して北朝鮮の関係サイトを攻撃している。

「麻薬」のような社会的問題には、麻薬排斥のような行動をとったこともある。メキシコの麻薬組織にアノニマスの関係人物が誘拐された時には、「解放しないならば、麻薬組織に関係した人物の動画像をインターネットに公開する」と脅迫して、拘束されていた人物の解放に成功している。

サイバー社会にとっては、意見が違うと言ってサイトが機能不全になるようなハッカー攻撃を受けるのは不当で許しがたいのだが、その考え方には共感できるものがないわけではない。異なる価値観をもつ集団の間では「正義」に対する考え方は違うが、その価値観の違う相手にサイバー攻撃を加える。サイバー空間に生じた新しい形の「武力闘争」で、「正義」とは何なのか、価値観をもう一度考えさせられる。

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