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第355回 医療費控除、マイナンバーで〜〜中途半端だが、半歩前進

2015/07/06

政府は来年1月からスタートするマイナンバー制度について、国民側のメリットをアピールする宣伝活動を展開している。特に医療関連では熱心である。医師会など医療関係者の間でマイナンバー導入への抵抗が強く、医療関係はマイナンバーとは別の「医療番号」を創設することになった。しかし、安全を確保した手続きを経てマイナンバーとシステム的に紐づけることができるので、マイナンバーの利便性を享受することができる。確定申告の際、所得税を医療費控除によって軽減するための作業をマイナンバーで簡便化するというのも、その1つである。

医療費控除は、家族が1年間に医療費として使った金額が、健康保険負担金額を引いて10万円を超える場合、確定申告の際に、超えた金額を所得額から差し引くことができる。その分、所得税が軽減される。大きな手術をした場合、歯の治療で多額な治療費をかけた場合、高額の治療薬を使用した場合など、この控除を利用するメリットは大きい。

しかし、医療機関に支払った領収書を保管して提出しなければならない、など、現在の手続きは面倒が多い。医療機関名、投薬の内容、自己負担額などの項目を領収書から転記して記入しなければならないなど煩わしい作業があって、途中で医療費控除の申請をあきらめる例も少なくない。そこで、財務省は医療費控除をマイナンバーで利用しやすくするように法令改正の準備に入っている。システムの改変、新規開発も必要なので、人手不足の情報産業をさらに忙しくしそうだ。

医療機関から健康保険組合などに送られる医療費データに患者の医療番号が付けられるようになるが、この医療番号がマイナンバーに関連付けられて、国民一人一人が一年間に負担した医療費情報を自分専用の情報受け取りサイトの「マイナポータル」で閲覧できるようになる。医療費控除を申請するには、領収書の代わりに、閲覧した医療費情報を税務署に転送するだけで済む。領収書の保管の必要がなくなる。

ただ、健康保険の対象になる調剤薬局での支払いは医療番号で扱われるので、同様に電子的に税務署に転送すれば良いが、控除の対象になる医薬品をドラッグストアで購入した場合や病院に行くためのタクシー代の申請などは、医療番号では扱われないので、自分で領収書を保管し、別途、提出しなければならない。医療番号やマイナンバーの利用ができない範囲がたくさん残っているため、適用は完全ではなく中途半端になってしまいそうだ。

ただ、半歩前進なのは間違いない。電子的に効率よく手続きができるため、医療費控除のために国民が費やす多大な時間の無駄が大幅に削減できるようになる。

タクシー代についても、将来、マイナンバーカードにクレジットカード機能を併催し、タクシー代精算時に乗車日時、乗降場所を電子的に記録し、マイナポータルで医療情報同様に利用できるようになれば、領収書の保管などの手数は不要になるはずだ。そこまで徹底するまでは中途半端な状態でも、我慢しなければならないだろう。

日本は、20世紀終盤までは、世界最先端を行く電子社会だった。しかし、いつの間にか先進国中で最後尾の後進国家に後退してしまった。医療経営の分野の電子化や電子行政が各国と比較して全く前進しなかったからである。その原因は、「国民共通番号」という、電子社会の前提になるインフラの構築が、多くは誤解や無理解による反対を受けて頓挫したためである。最近では住基ネットの際の反対が良い例だが、この結果、行政の無駄、非効率、税金の徴収漏れなどが累積している。一説によると、これが是正できれば10兆円を遥かに上回る財政のゆとりを生む効果が期待できるという。

ただ、その効果が現時点では目に見えにくいので、政府は、国民の目に見えやすい利便性を宣伝してゆくわけだが、これからも、粘り強く、マイナンバーの効用を宣伝してもらいたい。

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