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第358回 マイナンバーは「公平な社会」を目指す

2015/08/17

中原広国税庁長官は7月下旬の記者会見で「富裕層や多国籍企業の租税回避行動に積極的に対応する」と長官就任の決意を語ったという。「租税回避行動」というのは上品な表現だが、新聞の社会面の記事ならば「脱税」と断罪する行動だろう。もう少し柔らかい表現でも「税逃れ」ということになる。

来年1月にスタートする予定のマイナンバー制度も、政府の表現によると、「税負担の公平」「社会福祉の給付の公平性」などと言われるが、前者の方は「本来は負担すべき税を富裕層が回避しているのを是正する」と言い直せる。つまり「脱税を許さない制度にする」という意味でもある。「適正課税」ともいう。マイナンバー制度は税負担の公平な社会を目指す、というわけである。

中原長官はさらに、昨年から富裕層を対象に提出が義務化された「国外財産調書制度」や来年1月に施行される「財産債務調書制度」を活用し、「あらゆる資料情報を活用し、富裕層などを的確に把握し適正課税に努めたい」と述べている。これらの情報集約の手掛かりになるのが国民一人一人に番号が割り振られる「マイナンバー」である。

株式配当の支払い相手は、マイナンバー付きで税務署に報告されることになっている。銀行口座は3年後にマイナンバーが付けられることになっている。名義借りや隠し口座などの回避手段は難しくなるだろう。銀行関係者には、「国内口座の名義管理を厳しくすると、実態が見えにくい海外に預金が流出してしまう」と「国富の流出を招く危機」を強調する向きもあるが、海外への資産逃避を防ぐために、すでに先回りして昨年、「国外財産調書制度」を制定して、一定以上の金融資産、不動産などを外国に保有している場合には資産状況を届ける義務を課している。

サラリーマンは所得を完全に捕捉されて、税金をルール通りに徴収されているのに対し、収入の補足逃れが容易な個人事業者や資産の分散運用によって収入を捕捉されにくい富裕層は本来負担すべき税金を支払っていないのではないか、それが多くのサラリーマンのフラストレーションである。マイナンバーは、これまで隠れていたお金の流れを明確にする。「税負担の公平性が歪められているのではないか」というサラリーマンが抱く不信感を払しょくする制度である。

情報は不透明な状況を透明にする。マイナンバーは情報によって社会の透明性を高め、公平な社会に少しでも近づける。その効果は2〜3年後にはきりと分かってくるだろうが、中原長官の決意も高く評価してあげたい。

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