HOME > U+(ユープラス) > 奇論・暴論 > 第380回 人工知能、ロボット〜〜情報技術は人類の味方か敵か
2016/06/20
IBMは米国糖尿病学会と共同で、同社の人工知能システム「Watson」(IBMではコグニティブコンピューティング技術と呼んでいる)を使って糖尿病関連のアプリケーションを開発することになった。同学会がもつ糖尿病診断や治療についての豊富なデータをIBMのWatsonで解析する。効果的に糖尿病の治療技術を開発するとともに、効率的な早期診断、予防法などの開発業務を促進する。
こういうニュースに触れると、人工知能の発達は人間の健康に大きく貢献することが実感できる。情報技術は人類を幸福に導く味方である。
しかし、最近の情報技術の成果には、味方か敵かはっきりしないものもたくさん出てきている。たとえば、スマホを端末として乗客を運ぶ自動車を効率的に手配するウーバである。乗客となる利用者や運ぶ側の運転手がそれぞれマッチングサービス業者に登録しておく。車に乗りたい利用者がリクエストすると、自動的に乗客の位置情報を把握し、スタンバイできている車で、最短時間で乗客のところに到着できる車を配車する。
日本では規制の関係で、ウーバサービスには制約がある。欧米のように一般の運転者ではなく、タクシー免許をもつ運転者を登録している。欧米ではタクシー免許を持たない一般の運転者で、ちょっとした空き時間がある車を配車する。副業の「無免許タクシー運転手」である。利用者は乗車後、運転者の評価を送るので、優良運転者のランク付けができ、不良運転者を排除して質の良い運転者が残ってゆく。その他にも、サービスを提供するうえで参考になるデータが蓄積される。乗客の好みもしだいにはっきりして、それを考慮して配車してゆくので、次第に乗客の満足度も向上する仕組みになる。
スマホとインターネットがもたらした新しいサービスだが、これにはそうしたことを想定しなかった従来の規則に抵触する。破壊的な新サービスである。
欧州のある国では、影響を受けるタクシー事業者に対して、1人当たり1000万円以上の転・廃業の支援金を支給するということである。社会革新を推進し、その一方で、犠牲になる職業には「退職金」のような資金を出して構造変化を促す工夫をしているらしいが、それでも、タクシー事業者はストライキを頻発してウーバ反対を叫んでいる。技術進展に伴う社会変革は、なかなか受け入れにくいものである。
車を利用する乗客や副業でタクシー運転者になる人には前進だが、現在のタクシー運転手にとっては自分の生活基盤を奪う「敵」である。
同様に、人工知能の発達によって「消える」と予想される職業は多数、指摘されるようになっている。野村総研が英国の学者と共同で試算したところによると、日本の労働人口の49%が人工知能やロボットに職を奪われる、と予測している。行政事務員や銀行窓口係、警備員、スーパー店員、電気通信技術者、路線バス運転者などが「消える職業」の候補とされている。
該当する職業についている人からみれば、情報技術はにっくき「敵」になる。明るいバラ色の未来の裏側で職場の消失が進んでゆく。時代は大変動の真っただ中にあるのを感じる。