HOME > U+(ユープラス) > 奇論・暴論 > 第387回 電子社会への遅すぎる「前進」
2016/10/03
1980年代から90年代、筆者が日本経済新聞記者として未来の電子社会について精力的にイメージを膨らませて記事を書いていた中で、住民票などの証明書類は近くにあるコンビニエンスストアに設置した端末で、24時間、365日、いつでも必要な時に取得できるようになる、と予言していた。思えばそれから30年近い年月が流れている。
NTTが提供したデジタル回線サービスを使って、先進的なコンビニがネットワークをベースにした多様なサービスを実現する、というのが筆者の予言だった。ネットワークとリアル社会の接点に、24時間、365日営業する「地域の情報拠点」としてコンビニが圧倒的な競争優位のポジションを獲得する、というのがその骨子で、詳細は省くが、その結論の1つを「コンビニが銀行になる日」と表現してネットワークを基盤にした新しい社会は業界の壁を破って新しい競争が生まれる、とも予想した。
銀行の予想については金融業界の超大物が「銀行法でコンビニが銀行類似サービスを行うのは禁止されているから、日経の言うのは妄想だ」と噛みついてきた。その超大物とある懇談会で同席した時に激しく論争を挑んで来たので、「銀行法を変えれば良いじゃないですか」と反論したが、その時、横から大きな声で「その通り」と拍手してきた経営者がいた。その当時、ヤマト運輸社長だった小倉昌男さんだった。規制改革の風雲児だった。「郵便も銀行も法律を変えて根本から構造を変えないといけない」という趣旨を述べて筆者の背中を押してくれた。
コンビニは地域の情報拠点。それがやっと、行政にはっきり認識されたニュースが出て来た。「住民票など交付、コンビニ活用を 総務相、市区町村に要請」という見出しである。本文は「高市早苗総務相は、住民票や戸籍などの証明書をコンビニエンスストアで交付するサービスを活用するよう全国の市区町村に要請した」とある。カギはマイナンバーカードである。「住民票や戸籍がある自治体が対応すれば、マイナンバーカードを使って全国のどこのコンビニでも証明書を取得できるようになる。自治体の休日開庁の負担軽減や窓口での事務作業削減にもつなげる」と記事は続く。
しかし、条件はある。高市大臣は「全市区町村が参加しないと国民の利便性向上につながらない」と述べて、国民に利便性を享受してもらうためには「全国の自治体がくまなく対応すること」が必要と強調したそうである。記事によると「9月時点で住民票のコンビニ交付に対応しているのは250団体で、全市区町村の15%にとどまる」。
30年近く前に筆者がイメージしたのは2000年前後の電子社会だった。少し遅くなったが、「住基カード」によって実現できるかと思ったが、「住基カード」は理解を得られず、バトンをマイナンバーカードに引き継いだ。
筆者の感想で言えば、「亀の歩み」だが、ここを乗り越えないと、本当の電子社会は来ない。日本の電子社会への脱皮のチャンスとして、着実に進めてもらいたい。