HOME > U+(ユープラス) > masaの介護・福祉よもやま話  > 第3回 外国を手本にできない日本の高齢者福祉の現状

U+(ユープラス)

U+のTOPへ

mssaの介護・福祉よもやま話

コラムニストの一覧に戻る

第3回 外国を手本にできない日本の高齢者福祉の現状

2011/10/17

日本の介護保険制度は諸外国の様々な介護制度や方法論を取り入れて設計されたものだ。その状況を「人間の体」に例えるとしたら、胴体はドイツ、頭は北欧(スウェーデン・デンマーク)、手足はアメリカと例えられるだろう。つまり制度の骨格部分としての胴体にはドイツの介護保険制度を取り入れ、理念及びサービス提供の考え方は、グループホームの方法論などの先進地・北欧のケアソフトを取り入れ、実際に手足となる運用方法はアメリカで生まれたケースマネジメントの方法論を取り入れているという意味である。
(※ケースマネジメントがケアマネジメントと言い換ええられたのはイギリスのコミニュティケア法からである。)

平成18年(2006年)の制度改正時に小規模多機能型サービスを介護保険制度に位置づける際に、その原型となる概念を調査する為に厚生労働省からスウェーデン等に職員が派遣されたと聞いている。だが結局北欧には「小規模多機能型」という概念はなかった。しかしグループホームは「地域密着型」という概念で運営されているということがわかり、その考え方が改正介護保険制度に導入されると同時に「小規模多機能型サービス」については「小規模多機能型居宅介護」として我が国独自のサービスに位置づけられた。このように我が国の高齢者福祉サービスについては、世界各国の概念や方法論を取り入れて運用されているのであるが、いま我が国の状況を考えると、それらの諸外国とは比較できない我が国特有の事情が生まれている。果たして今後も外国のサービスが参考になるのだろうか。

世界保健機関(WHO)が公表している2011年のリポートでは、各国の平均寿命は日本が、サンマリノと並んで83歳で第1位である。スウェーデンは81歳で第12位であるが、ドイツは80歳で20位、アメリカは79歳で29位である。2010年の高齢者率(60歳以上の割合)は日本が世界1の29%、ドイツが26%で2位、スウェーデンは5位で24%、アメリカは18%で36位である。人口が世界10位の日本が、日本より4千万人以上人口の少ないドイツや国民総人口が886万人しかいないスウェーデンより高齢化率が高くなっている現状は、高齢者の総数でいえば両国と比較できないほどその数が多いという意味である。

つまり人類史上かつてないほど多数の高齢者を抱えている社会が我が国の現状なのである。当然のことながら高齢者人口に比例した形で、重度医療対応者や認知症高齢者の数も諸外国よりはるかに多いと考えねばならない。北欧の認知症ケアソフトが進んでいるというが、我が国では、それらの国よりさらに高齢化した認知症の方が、数としては比較にならないほどたくさん暮らしているということである。その状況でグループホームの数をそれらの国と同じ割合で増やしていくことがこの国の方法論として正しいのだろうか。

グループホームケアの先進国であるスウェーデンは、日本より出生率が高く、さらにここ数年はその率が上昇傾向にある。つまり少子高齢化の進行速度はスウェーデンより日本の方が深刻なのだ。その日本で一人の高齢者支援に関わる若年者数をそれらの国と同じにすること自体が不可能である。しかも財源として考えることができる消費税率は日本が5%であるのに対し、スウェーデンにいたっては25.3%である。よって我が国の現状から鑑みるとケアの質の担保を、ケア単位を縮小化させて、少数の介護者が少数の高齢者をケアする方法だけ考えていては、そのシステムは崩壊するリスクが高いということだ。

しかし現在の国の政策はユニットケアをサービスの主流にし、施設規模も縮小化して一人の高齢者に数多くの人手をかけてケアする方向でサービスの品質担保を図ろうとしている。特養の新設や増設を、ユニット型の新型特養に限定したり、グループホームなどの小規模対応型施設の増設を奨励したりする政策である。人的資源も財源も豊富な状況ならそれもよいだろうが、人も金も足りない現状でこの政策の行きつく先はどうなるのだろうか。スケールメリットという言葉があるが、これは何も費用の面だけで考えるべきものではなく、ケアの方法論にも効率的方法を導入すると言った面を含め、ケアの品質担保が考えられて良い。つまり高齢者の支援システムにもスケールメリットに着目した効率的な介護方法も求めていかねばならないという意味である。人手をかけなくとも、ケアの質をある程度保つ方法にも重点を置いて考えないと、この国のケアは持たないのである。そこの視点や研究が足りな過ぎる。

厚生労働省が現在進めているケアの単位の小規模化という制度設計自体が間違っているのである。質の担保をケア単位の小規模化でしか見ない向こう側には、施設あって労働者なしという状況を生み、その結果は介護サービスそのものを崩壊させることに繋がりかねない。なぜなら人手が足りない状況は、事業経営のためには介護職員の質より数が問題となり、スキルのない職員が仕事を得るのに困らない状況を生む。そのことによって本来介護サービスの品質を担保することを目指したユニットケアは、スキルの低い職員によって単なる密室ケアとなり、事業者ごとのサービスの品質格差を助長する結果しか生まないだろう。人材確保の視点がない、理念だけを先行させた施策は、ないものねだりの制度設計でしかなく、現実を無視した理想論で作る介護サービスは空中分解するしかない。

認知症ケアにしても、一番認知症の高齢者が多い我が国から発信する「新たな認知症ケア」の発想があったって良い。諸外国のサービスを参考にすることを否定はしないが、既にそれらの教科書の想定外、手の届かない場所を我々は歩いているのである。

上記のコラム購読のご希望の方は、右記の登録ボタンよりお申込みください。

登録はこちらから