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第86回 混合介護の弾力化は、介護事業者の経営改善に結び付くか

2018/10/09

9月28日付で厚労省から「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」が発出された。

これはいわゆる混合介護のルールを明確化にしたものであるが、このことを「混合介護の解禁」と表現するのは間違っている。なぜなら現在でも、介護保険の指定事業所が保険外サービスの提供により、契約で定めた料金を徴収することは認められているからだ。今回は混合介護の運用をさらに弾力的に推し進めるために、訪問サービスと通所サービスにおいて介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する方法とルールを明確にしたものである。

訪問介護では、保険給付サービス前後及びサービスを途中で中断して、保険外サービスを別に提供することが可とされた。
通所介護においては、サービスを一旦中断して行える行為が理美容と併設医療機関への急病による受診だけであったものが、健康診断、予防接種若しくは採血などに拡大されたほか、通所介護の途中で中抜けして、個人の希望による外出サービスを行ったり、物販・移動販売やレンタルサービス行うこともできるようになった。サービス提供と同時進行で、通所介護の職員が買い物等代行サービスをすることも可能となった。

それは事業者にとってどのような意味があるのだろうか。保険外収入を得る方法が増えたということは、そのまま事業者の利益につながり、事業経営にプラスとなるのだろうか。僕はどうもそうは思えないのである。
例えば訪問介護について、「利用者本人分の料理と同居家族分の料理を同時に調理するといった、訪問介護と保険外サービスを同時一体的に提供することは認めない。」と釘を刺されている。しかし、これは訪問介護事業者が一番求めていた混合介護の形ではなかったのではないだろうか。なぜなら利用者の食事と家族の食事を同時につくるという行為は、料理を作る量が増えるだけで、手間がさほど増えるわけではないのである。いつもの料理作りの量を増やすだけで、保険給付と一体的に保険外収入を得られるのであれば、訪問介護員の就業時間も長くならず、それはそのまま事業者の収入増加につながるだろう。しかし今回これは認められなかった。

認められた保険外サービスとは、あくまで訪問介護の前後の時間や、訪問介護をいったん中断する時間帯において、保険給付としては認められていないサービスを別に行うことである。そうであれば訪問介護員が行わねばならない業務は確実に増えるわけであり、保険給付としてのサービス提供時間は変わらなくとも、保険外サービスに携わる分の就業時間は確実に増えるわけである。さらにサービスが多様化する分、様々なサービスに対応できるようなスキルが求められるかもしれない。そうすると人件費や教育費は確実に増加するわけである。

通所介護についても、保険外サービスに携わる職員は、保険給付である通所介護の配置規準から外れるために、保険外サービスが提供できるためには、それなりの人員配置が必要になる。そして受診同行については、「個別に行うものであり、利用者個人のニーズにかかわらず、複数の利用者を一律にまとめて同行支援をするようなサービスを提供することは、適当ではない。」として、職員は利用者にマンツーマンで対応せねばならないのだから、複数の受診対応者を一人の職員で対応して、保険外費用を得るという効率化は図れないわけである。送迎のための運転専門の職員がいる場合に、サービス提供時間の配置職員ではないその職員が、買い物等代行サービスを行って保険外収入を別途得ることができるのはプラスと考えられるが、そもそも今までその運転専門職員が、サービス提供時間中に何をしていたかが問題となる。まさか遊ばせていたわけではないのだろうから、併設施設等の別の仕事に携わっていたのかもしれない。その部分の業務は無くなってよいのかということも考えねばならない。また通所サービスの場合、道路運送法に基づく許可又は登録を行っているところはほとんどないと思うが、運送部分を有償化した場合は、この許可又は登録が求められ登録車両による移送が必須になる。それも手間といえば手間である。

保険外サービスを実施するために、会計や運営基準を別にすることや、保険外サービスの説明をしたり、請求を別にしたりすることは事務処理上の問題だから、サービス現場の職員の業務負担増にはならないと思われるが、保険外サービスの記録も必要とされているのだから、この部分の手間は増える。
そのように考えると保険外収入を得る方法は多様化し、保険給付事業と連続してそれを行なえるという意味での効率化は図られ、介護事業者は事業収入を増やす方策は得ることができたというものの、そのための運営コストはかかってくるということになる。少なくとも従前までと同様の運営コストで混合介護が可能になることはない。まかり間違って、運営コストの方が収益を上回ることが、無いようにしなければならないことは当然であるが、それにもまして心配される事態が想定される。それは混合介護の弾力化によって、介護事業者が保険外収入を得やすくなったことを理由に、今後の報酬改定で保険給付額が引き下げられるのではないかという懸念がぬぐえないことである。

さらに言えば、今回示された混合介護は、「行わない」という選択肢がほとんどないということだ。なぜならそれをしない事業者を、利用者やサービス計画担当者である介護支援専門員が、選択しなくなるのは必然だからである。何かあれば保険外サービスも利用できるという事業者が選ばれていくのは、ごく自然な流れなので、事業経営のためには混合介護を提供できる事業者にならねばならず、ほとんどの事業者がそれを行うことだろう。多くの介護事業者が混合介護を実施するのであれば、混合介護が提供できる事業者であるという差別化は不可能となり、それは看板にはならないという意味である。よって訪問サービス事業者及び通所サービス事業者は、混合介護を提供できるように体制整備が求められ、その体制の中で保険外収入を得るための営業努力が求められるということになる。

つまり従前より多くの保険外収入を、確保する方策を得ることができたわけであるからといって、それは事業経営を大きく支える財源とはなりえず、保険給付の単価が削られた分を補う程度しか期待できないのではないだろうか。むしろ混合介護を提供できない事業者は、事業経営に必要な収益を挙げられずに倒産の危機に直面する可能性が高いと言えよう。
しかし人手不足が深刻な問題となっている今日、保険給付の前後及び途中で保険外サービスを提供できる人員配置はできるのか、そうした人員配置をしないまま、保険外サービスを提供する方向に舵を切った時、訪問介護員や通所介護の職員は疲弊して辞めてしまう恐れもある。そしてそうした人材を確保・配置するためのコストが、収入以上の負担とならないのかが、大きな課題となる。

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