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第143回 地域包括ケアシステム崩壊の懸念

2024/04/08

昨年5月に成立した介護保険制度改正関連法案の中には、「介護予防支援について、地域包括支援センターに加えて、居宅介護支援事業所も市町村からの指定を受けて実施できることとする」という内容が含まれている。この改正は、地域包括支援センターの予防プラン作成業務を減らして、その他の地域支援事業にシフトしていくという意味でもあり、市町村としてはできるだけ指定介護予防支援事業所の指定を受ける居宅介護支援事業所が増えてほしいと考えているだろう。

2021年報酬改定でも、このことは論点の一つになっており、委託連携加算(300単位)が新設されたものの、委託した月のみにしか算定できない費用で、わずか3000円の増収にしかならないことから、この加算の算定率は著しく低くとどまっている。よって予防プランの委託増加にはつながらなかったために、居宅介護支援事業所が委託事業ではなく、指定事業として予防支援を行うことができるようにしたものだ。

居宅介護支援費の逓減性の緩和も、モニタリング訪問の2回に1回はテレビ電話等で可能とする改正も、すべて居宅介護支援事業所が、予防支援を直轄してほしいという願いがこもった改正と思える。そこで問題となるのが予防支援費であるが、下記のように改定された。

<改定前>
介護予防支援費:438単位

<改定後>
介護予防支援費(Ⅰ):442単位※地域包括支援センターのみ
介護予防支援費(Ⅱ):472単位(新設)※指定居宅介護支援事業者のみ

また介護予防支援費(Ⅱ)を算定する場合に限り、次の加算を算定できる。
・特別地域介護予防支援加算:所定単位数の15%を加算(新設)※別に厚生労働大臣が定める地域に所在
・中山間地域等における小規模事業所加算:所定単位数の10%を加算(新設)※別に厚生労働大臣が定める地域に所在し、かつ別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合
・中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算:所定単位数の5%を加算(新設)※別に厚生労働大臣が定める地域に居住している利用者に対して、通常の事業の実施地域を越えて、指定介護予防支援を行った場合

居宅介護支援事業所が、予防プランを作成する場合、地域包括支援センターの作成費より30単位高い理由は、「市町村において、管内の要支援者の状況を適切に把握する観点から、居宅介護支援事業者が、指定を受けて行う場合については、市町村長に対し、介護予防サービス計画の実施状況等に関して、情報提供することの手間と経費を上乗せした」とう意味がある。

この単位(金額)は果たして、居宅介護支援事業所が、大喜びで予防支援事業所の指定を受けたがる単位だろうか・・・・・。
居宅介護支援費の逓減されない金額は、要介護1〜2が1,086単位、要介護3〜5が1,411単位である。それを考えると、居宅介護支援費より1人当たり月額で6,140円〜9,390円も安い予防支援費を積極的に算定するという動機づけは生まれるだろうか。(※15%の加算を算定してもこの差は、700円程度しか埋まらない)

そもそも居宅支援事業所のケアマネジャーが、足りない地域が増えているのだ。北海道の郡部では町内で、ケアマネジャーが確保できず、近隣市のケアマネジャーを探して、担当をお願いせねばならない地域が増えている。そういう地域の居宅介護支援事業所は、予防支援の指定など受けることはできないし、そうした地域の利用者を担当している、近隣市の居宅介護支援事業所も、とてもではないが予防支援まで、直轄で行う余裕はないだろう。

逆に、下手に予防支援事業の指定を受けてしまえば、予防給付対象者が申し込みに来た際に、担当人数に余裕がある際には、申し込みを受け付けなければ、「正当な理由のないサービス提供拒否」になってしまい、コスパの悪い支援を無理にでも行わねばならないとい事態も想定される。そうすると、指定予防支援事業所の看板を欲しがるのは、よほど介護給付の利用者確保に困っている、居宅介護支援事業所だけになり、実際には、地域包括支援センターの予防プラン作成業務負担の解消には、つながらないのではないか。

それは、地域包括支援センターの業務がうまく回らないことに繋がり、地域包括ケアシステムが、崩壊することにもつながりかねない問題である。

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