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第4回 社会資源の中身を知らないとケアマネジメントは機能しない

2011/11/14

介護支援専門員の資質について、様々な問題と絡んで議論されているが、僕が一番気になるのは、社会資源としての様々なサービスの中身を知ろうとしない介護支援専門員が実に多いということだ。

介護支援専門員が、利用者と社会資源を有効に結びつけるためには、介護支援専門員自身が社会資源そのものをよく知る必要があるのに、そのことを「知る」作業をおろそかにして、表面知識だけで利用者と資源を結びつけることによって生ずるミスマッチに気づかない鈍感な介護支援専門員が存在する。

例えば訪問介護という社会資源と、特定の利用者を結びつける必要がある場合でも、訪問介護でさえあればよいという考え方は問題である。どのような営業方針を持ち、どんな人材によってサービス提供されている訪問介護事業者で、サービス提供の質はどうなのか、ということがきちんと評価された上で、利用者に結びつけていかないと、利用者の暮らしはよくならない。

なぜなら人間には様々な個性があり、人間同士の波長にも「合う、合わない」という問題があるからだ。そのことを無視してケアマネジメントの結果を評価しても、単に利用者の我がままだとか、サービス提供側の無理解という結論にしかならず、最も肝心な問題である「利用者と結びつける社会資源は、最も適切なものであったのか」・「サービスとして適当であっても、利用者にとって最善の環境と方法となっていたのか」という評価が抜け落ちてしまう場合が多い。

人の暮らしを支援するサービスは、その暮らしの個別性にマッチする必要があり、そうであれば介護支援専門員のアセスメントとは、利用者の暮らしの個別性だけをアセスメントするだけではなく、各サービス事業所個々のサービス提供能力評価という面までもアセスメントする必要がある。ところがこの部分の評価ができない介護支援専門員が多い事が一番の問題である。だからいつまでも生活課題が解決しないケースがあるという見方も必要だ。

僕が2期4年代表を務めていた「のぼりべつケアマネ連絡会」では、定例会において様々な方式での研修を行っている。その中で現在、介護支援専門員が抱えているケースの中から「困難ケース」と考えるケースの実践発表を行い、それに対してグループで対応方法を話しあい、発表者へのアドバイスとして解決方法につながる具体策を、各グループから発表するという方法をとることがある。

そのケース検討として、当施設から「アルツハイマー型認知症の方の行動・心理症状に対する支援について」というケース発表を行ったことがある。その概要は、意思疎通が難しい運動能力に障害のない重度認知症の方で、園内徘徊(昼夜問わず)、放尿・放便(他利用者の居室、デイルーム等)、女性スタッフに対する性的言動、興奮状態となった際の他者への迷惑行為、異食行為等の行動症状に対する適切な対応が見いだせず、会議を繰り返し援助内容について検討している段階であるが、今後の支援について、どのようにアプローチすべきか考えたい。という内容であった。

その詳細を30分程度で発表した後、グループ討議を行った結果、各グループから様々な意見が出されたが、複数のグループから「個別のかかわりを濃厚に持つ為に、グループホームへの転入所もひとつの方法でかないか。」、「集団生活が難しいのでGH等の小規模施設移動」などという意見が出された。

しかしこの意見には首をかしげざるを得ない。確かにグループホームで高品質なケアを提供している事業者も多い。しかしそれは事業所によりけりで、グループホームが放りだしたケースを、我が施設で受け入れ、生活課題を解決し、問題なく生活できている事例もあるくらいである。

確かに特養は大勢の利用者が住んでいる場所なので、人の数にストレスを感じる認知症の方には向かない場所であるが、そうではない認知症の方について、必ずしもグループホームより低品質のサービスしかできない場所ということにはならない。現にグループ発表では「個別のかかわりを持っていらっしゃる。」と当施設の関わりを評価しているにも関わらず、なおかつ「個別のかかわりを濃厚に持つ為に、グループホームへの転換もひとつの方法でかないか。」などと結論付けている。

そこには特定のグループホームについて、こうした方法でサービス提供され、事実としてこういう効果があることを見ているので、そこへの転入所を考えてはどうかという視点は皆無だ。

そもそも認知症の方がグループホームに入所せず、特養に入所するのは個別の様々な事情があるのだ。それは人によっては経済的理由であったり、人によっては訪問してどちらが良いかを確かめた結果であったりする。

そういう人々にとって、資源として入所できるグループホームが地域にいくらあったとしても、現在生活しているホームから住み替えるという選択は、他人が考えるほど簡単な決断ではない。少なくとも暮らし全般を支援すべき介護支援専門員が、特養よりすべてのグループホームが個別対応に長けているなんていうふうに思いこむことはあってはならないし、解決策が単に特養からグループホームへの転入所で、その後の暮らしに対する責任あるアドバイスがされないのは問題である。それは介護支援専門員という有資格者が公的な場で発言するという意味においては「社会悪」とさえいえる状態だ。

介護支援専門員という資格を持つ人間であれば、サービス種別だけで利用者の暮らしのマッチングを考えるのではなく、人的資源も含めた個別のサービス状況でそのマッチングを考えるべきだし、困難ケースへのアドバイスなら、特定のサービスへの変更を提言するだけではなく、具体的支援方法を明らかにするスキルが求められている。

例えば本ケース検討の結論において、「私の知るグループホームなら、このような方法で問題解決に当たります。これは現状の特養では不可能でしょうから、こうしたサービスを行うことができるグループホームなどへの転入所を勧めてはどうでしょう。」という提案であれば、個別の状態に視点を向けたポジティブな提案であると評価されるであろう。

しかし既存のサービスの制度上の位置づけしか考えずに、個別のサービスの質に視点が向かないケアマネジメントは、介護支援専門員の価値観の押しつけに過ぎず、社会福祉援助の専門家としての責任と自覚に欠けるといっても過言ではないだろう。

そうした責任と自覚を持たないと、介護支援専門員という資格はいずれなくなってしまう可能性があることを認識すべきである。

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