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第15回 深刻化する人員不足・人材枯渇

2012/10/29

介護保険制度は第5期計画に入ったことで、さらにサービスの拡充を図り、箱物として介護保険施設やサービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホーム等がすごい勢いで建設されている。しかしそこで提供されるサービスの基盤となる人材確保の対策は全くなされていないため、各地で人員不足、人材の枯渇が深刻な状況になっている。

この影響は既存の介護施設や介護サービス事業所にも波及し、退職者の補充の募集をかけても、人がなかなか集まらないという状況が全国各地で生まれている。退職しない職場環境づくりが大事だというが、介護保険制度開始から既に12年を経ている現在では、制度開始当初50代だった職員が退職年齢に達し始めている。定年の延長制度などを活用せよといっても、夜勤があり、勤務が不規則で、入浴や排泄の介助といった、体力と技術と知識の三位一体条件を求められる職業に、60代の人がずっと就業し続けることができると考えることに無理がある。これは簡単に定年延長でカバーできる問題ではないのである。

男性の介護職員数もかなり増えているが、まだまだ女性の比率が高いのが介護職員であるから、結婚あるいは出産を機会にして退職するという若い女性職員も多い。そうではなくとも既婚者は、夫の転職や転勤で居所が変われば現在働いているところでの就業継続が難しくなるケースが多く、定年退職以外の退職が多い職業であるのは宿命なのだ。つまり職場環境の問題ではない退職をある程度見込んでおくべき職業が介護施設等の介護職員なのである。しかし、この補充がままならないというのは、社会問題としてもっとクローズアップされてしかるべきである。

一方、介護福祉士養成校の実情を見ると、生徒が集まらず、クラスの数が減り、1クラスしかない定員も埋まらないという状況が生じている。これは少子化の影響のみではなく、過去のネガティブキャンペーンの影響がかなり残っているからであり、現に高校の進路指導の先生に話を聞くと、介護の職業は積極的に勧められないし、生徒が望んでも翻意を促す場合があると言っている。当地域の某高校の介護福祉士養成クラスも昨年度限りで廃止されてしまって、高校生が介護施設に就職するというケースが激減している。

こうした売り手市場となってしまった介護福祉士養成校生徒の質の問題はかなり深刻である。生徒がいない養成校は廃校せざるを得ないから、できる限り生徒を集めようとする。そうなると厳しく指導して、出来ない子は留年させるのもやむなしという教育方針は、経営と合致しなくなる恐れが強くなる。必然的に、授業では一生懸命に教える教師であっても、評価は甘くならざるを得ないという状況が生まれてくる。試験で落第点をとっても、合格点を取れるレベルの追試を行って留年させない、無事卒業させて現場に介護福祉士として送り出すという状況もあるかもしれない。国家試験を合格しなくても養成校を卒業すれば介護福祉士の資格を得ることができる現状で、このことは資格者の質が議論される中で重大な問題になりつつある。

なぜなら看護のできない看護師は存在しないのに、介護の現場で介護ができない介護福祉士が存在するという珍現象が起きているからだ。しかも介護ができない介護福祉士でも、そういう「人員」を求める職場はたくさんあり、かつ5期計画以降は、さらにそれは増えるという珍現象が確実に増えていく。知識や技術が身についていないことにより、介護ができない介護福祉士の中には、自分の適性を疑う前に、職場環境などほかにその原因を求めて、次々と職場を変える人も多い。しかもそういう人でも雇ってくれる職場は星の数ほどあるというのが5期計画以降のこの国の現状だ。全国津々浦々でそういう状況が生まれているのだ。

介護のできない人が、介護サービスに携わって行くのだから、そこでのサービスの質の低下はより深刻化するだろう。人さえいれば良い、夜勤をする人員だけが確保できればよいということでは、そこで何が行われていようとなんでもありという密室が作られていく可能性が高くなる。

政治は何故このことを放置しておくのだろう。社会保障改革の一番の課題は、社会保障を支える人材の確保だということを何故わかろうとしないのだろうか。

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