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第24回 介護職員の人材不足に無策は続く

2013/08/05

資格取得講座運営会社「ヒューマンアカデミー」が2008〜2012年度の5年間に渡り、東京都に申請せずに旧ホームヘルパー2級の資格が得られる講座を開催して、受講者に偽造した修了証明書を発行していたことが今年6月に明らかにされた。埼玉平成高(埼玉県毛呂山町)では、101人もの生徒がこの講座を受講し、偽の修了証によって資格を得たと思い込み、今回その資格が無効であることを知り、大変なショックを受けているそうである。

それはそうだろう。時間とお金をかけて勉強して得られたと思っていた資格が、全くの偽資格であるとわかったショックは計り知れない。偽造した講座開催会社が今後、「研修費用の返還や他社で再受講する際の費用負担、再受講しない人にも同社が研修代と同額の補償金を出す」と報道されているが、そのような偽造を行った会社が、本当にそのような補償をするのかという疑念がぬぐいきれない。

仮に、金銭的な補償がされたとしても、失われた貴重な時間は戻ってこない。本当に罪なことである。しかもこの問題をさらに大きくしているものとして、制度上の資格取得の改正時期とかぶっているということが挙げられる。つまり資格が偽造された2012年度まで存在していたヘルパー2級の資格は、今年度から廃止され、2013年度以降は、それに替わるものとして、130時間の講習を受け、旧ヘルパー2級に当たる初任者研修修了資格を得て始めて、訪問介護などの業務に携わることができるのである。

この事件の被害者のうち、何人の方々が初任者研修に再チャレンジしようと思えるだろうか。介護の人手不足が叫ばれる今日においては、このような形で介護サービスの資格が偽造され、それによって介護サービスを職業としようとする人々の意欲をそぎ、そのことで一人でも介護の人材が減るのであれば、これは大きな社会損失と言えるだろうし、介護サービス業界としては、イメージダウンも含めて、人材確保の重大な足かせになりかねない問題である。

それにしても介護の人材不足・人員不足に対し、国の無策ぶりは目を覆いたくなる。何もしていないのが現状であるから、介護サービス経営における最大のネックは、利用者はいるのに、サービス提供する人が集まらないという点であり、その状況はどんどん悪化の一途をたどるのみである。しかも介護基礎資格の変更は、この人材不足をさらに悪化させる要素になってきている。

前述したように2013年度以降は、ホームヘルパー2級に替って初任者研修が実施されている。初任者研修は介護職への入職段階と規定され、それまでの2級ヘルパー養成講座が在宅中心の内容であることから、初任者研修については在宅・施設を問わず介護職として働いていく上で基本となる知識・技術を修得できるようなものとなるよう、130時間という講習を受けなければならなくなった。しかし相も変わらず、その資格で働いて得られる報酬は決して高くはない。

そのためにヘルパー2級資格を習得しようとしていた人の中には、初任者研修を受けてまで介護の資格を取ろうとは思わず、資格取得を諦めてしまう人もいて、受講者が集まらないために、今までヘルパー2級講座を開講していた機関で、初任者研修を実施していない機関も存在する。

さらに「介護福祉士」国家試験は、2015(平成27)年度より受験要件が変更となり、従来の「実務経験3年以上」に加えて、450時間の「実務者研修」の受講が義務付けている。さらに介護福祉士養成校の学生に対しても、卒業=資格取得という道はなくなり、2年間で1.800時間程度の講義を受けて卒業した後に、介護福祉士国家試験を受けて合格しなければ資格取得ができなくなる。

現に働いている人が、働きながら450時間の実務者研修を受けることは容易ではない。これによって2015年以降は、実務経験者からの介護福祉士資格取得者は大幅に減るだろうし、介護福祉士養成校の卒業生の何割かが必ず試験不合格となるだろうから、介護福祉士の取得者の数は大幅に減ってくるだろう。

質の担保のために、資格の敷居を高くして、選別を厳しくするのはよいが、介護人材不足にまったく無策な状態で、その資格に基づいて働く職業の給与を含めた待遇も他の職業に比べて低いままで、このような形で資格取得のハードルだけを上げることによって、介護を職業としようとする人材はますます少なくなるだろう。

すでに我々のサービス現場に、そのしわ寄せが現れており、人を募集しても応募がないという状態が、恒常化しつつある。それによる現場職員の疲弊が心配されるところである。我々自身が、これに対して打つ手は事実上ないといっても過言ではなく、全国そこかしこの介護サービス事業者から悲鳴が上がっている。

政治家も、官僚も、なぜこのことをもっと重大視しないのだろうか。必要な介護を受けられないという実態が、自分の身に降りかからないとわからないというのでは、国の施策を担うものとして不適格ではないのだろうか。

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