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第25回 地域包括ケア計画が作り出す新しい地域社会

2013/09/02

この時期に、「要支援者の給付はどうなってしまうのか?」と問いかけている人がいるが、今更何を言っているんだろう。

社会保障改革国民会議の報告書が首相に提出され、その意見を踏まえて次期改正制度を作ろうとしているんだから、要支援者の市町村事業への移管は既定路線であり、今から変更されることはない。

それが証拠に、ゴールデンウィーク中に、厚生労働省が要支援外しをマスコミにリークした後、5/7の大臣記者会見で、市町村格差を理由にその方針を否定した田村厚労大臣は、8/11(日)のNHKの番組内で、5/7発言から180度転換し、「要支援」向けサービスを市町村事業に移す改革案について次のように発言している。

・「財源は介護保険の財源を使う。変わらないように議論する」
・「サービス提供のところを自治体で知恵を出してもらえれば、費用が抑えられる。いきなりは無理だと思うので、時間をかけて(市町村に)受け皿を作ってもらう」

この発言から、国の方針は明確であることがわかるだろうし、この流れはもう止まらないだろう。

ところで社会保障改革国民会議の報告書で、要支援者を介護保険給付対象から外す理由について、次のように記述されている。

今後、認知症高齢者の数が増大するとともに、高齢の単身世帯や夫婦のみ世帯が増加していくことをも踏まえれば、地域で暮らしていくために必要な様々な生活支援サービスや住まいが、家族介護者を支援しつつ、本人の意向と生活実態に合わせて切れ目なく継続的に提供されることも必要であり、地域ごとの医療・介護・予防・生活支援・住まいの継続的で包括的なネットワーク、すなわち地域包括ケアシステムづくりを推進していくことも求められている。

この地域包括ケアシステムは、介護保険制度の枠内では完結しない。例えば、介護ニーズと医療ニーズを併せ持つ高齢者を地域で確実に支えていくためには、訪問診療、訪問口腔ケア、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問薬剤指導などの在宅医療が不可欠である。自宅だけでなく高齢者住宅に居てもグループホームや介護施設その他どこに暮らしていても必要な医療が確実に提供されるようにしなければならず、かかりつけ医の役割が改めて重要となる。そして、医療・介護サービスが地域の中で一体的に提供されるようにするためには、医療・介護のネットワーク化が必要であり、より具体的に言えば、医療・介護サービスの提供者間、提供者と行政間など様々な関係者間で生じる連携を誰がどのようにマネージしていくかということが重要となる。確かに、地域ケア会議や医療・介護連携協議会などのネットワークづくりの場は多くの市町村や広域圏でできているが、今のところ、医療・介護サービスの提供者が現場レベルで「顔の見える」関係を構築し、サービスの高度化につなげている地域は極めて少ない。成功しているところでは、地域の医師等民間の熱意ある者がとりまとめ役、市町村等の行政がその良き協力者となってマネージしている例が見られることを指摘しておきたい。

こうした地域包括ケアシステムの構築に向けて、まずは、2015(平成27)年度からの第6 期以降の介護保険事業計画を「地域包括ケア計画」と位置づけ、各種の取組を進めていくべきである。

具体的には、高齢者の地域での生活を支えるために、介護サービスについて、24 時間の定期巡回・随時対応サービスや小規模多機能型サービスの普及を図るほか、各地域において、認知症高齢者に対する初期段階からの対応や生活支援サービスの充実を図ることが必要である。これと併せて、介護保険給付と地域支援事業の在り方を見直すべきである。地域支援事業については、地域包括ケアの一翼を担うにふさわしい質を備えた効率的な事業(地域包括推進事業(仮称))として再構築するとともに、要支援者に対する介護予防給付について、市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用しながら柔軟かつ効率的にサービスを提供できるよう、受け皿を確保しながら新たな地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていくべきである。

僕はこの文章を何度読んでも、要支援者を介護保険から除外する理屈が読み取れない。「地域ごとの医療・介護・予防・生活支援・住まいの継続的で包括的なネットワーク、すなわち地域包括ケアシステムづくりを推進していくこと」は重要だということはわかる。「この地域包括ケアシステムは、介護保険制度の枠内では完結しない」こともその通りであろう。「様々な関係者間で生じる連携を誰がどのようにマネージしていくかということが重要となる」ことも理解できる。その中で、「地域支援事業については、地域包括ケアの一翼を担うにふさわしい質を備えた効率的な事業(地域包括推進事業(仮称))として再構築」する必要性もあるだろうとは思う。

だからといってなぜ、「要支援者に対する介護予防給付について、市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用しながら柔軟かつ効率的にサービスを提供できるよう、受け皿を確保しながら新たな地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていくべきである」という結論に持っていくのかが理解できない。論旨が繋がっていないのではないだろうか。

前段の論旨から言えば、様々なサービスや関係者を有効に連携される必要があるんだから、本来は同じ制度の中で繋げられるものは、そのままにしたほうが良いという考えの方が一般的ではないか。

つまり地域包括ケアシステムを円滑に進めようとする意図があるのなら、要支援者を給付除外するより、同じ制度の中でマネジメントしていった方がずっと効率的に切れ目のないサービスを提供できるということだ。むしろ予防給付と介護給付を分断して、ワンストップサービスを崩壊させた2006年改正が間違っていたと反省したほうが良いのではないかとさえ思う。

そういう意味では、この報告書の要支援外しの理由は、あまりに取ってつけたような理由で、本音は、まず財源確保のために給付抑制ありきで、要支援者の給付除外の論理が述べられているだけというような気がしないでもない。

とはいっても、このことについて今更愚痴を言っても始まらないわけで、否応なく要支援者のサービスは市町村事業へと段階的に移行していくことは間違いないところである。

そうであれば当然のことながら、市町村のサービス格差は必然的に生ずるものであり、どの地域に住んで高齢期を迎えるのかということが、老後の生活の質に直結する近未来というものが見えてくるであろう。

その結果、自分の求めるサービスを利用できる地域への住み替えが当然のように行われる社会になってくることも考えられ、地域包括ケア計画とは、住み慣れた地域社会で暮らし続けることができるシステムではなく、新しいコンパクトなサービス提供地域に移住を促進するシステムに変換していく可能性を持っていると言えるのではないだろうか。

そう考えていくと、財源が最大の課題として論じられ作られるシステムの帰結するところは、高齢期に住み慣れた地域で暮らせない社会かもしれない。その中で、高齢者には、今以上に新しい環境への適応力が求められるのが、我が国の近未来像であろう。

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