HOME > U+(ユープラス) > masaの介護・福祉よもやま話  > 第31回 幸せは押し売りできない

U+(ユープラス)

U+のTOPへ

mssaの介護・福祉よもやま話

コラムニストの一覧に戻る

第31回 幸せは押し売りできない

2014/03/03

幸せというものに、決められた基準や尺度があるわけではない。それは感じ取るものだから、ここまでが幸せで、ここからが不幸であるという線引きや区分もできない。

幸せを感じ取るのは、それぞれ異なる価値観を持った個人であるから、感じ方も人それぞれである。ここまでやってあげているのだから幸せにならないとおかしいという理屈は通用しないのである。ここには他人がうかがい知れない部分が必ず存在する。だから僕たちが、その人の為と思って行った行為が、結果的にその人の幸せにつながるとは限らない。しかし僕たちは、そのことを虚しく思う必要はなく、誰かが幸せになるために寄り添う存在としての、自分の存在や職業に使命感と誇りを持ちつつ、幸福追求という目的に向かって何をすべきかを常に考えていく必要があるだろう。そして幸福の感じ方には個人差があるのだから、ひとりひとりの生活歴や嗜好などの個人差に目を向けて、僕たち自身の価値観を押し付けないという考え方が求められるだろう。

勿論、幸せになるために、すべてが許容されるということではなく、市民法や道徳法を含めた法律に違反するような形での幸福追求は許されないし、人の不幸を踏み台にするような、人倫を逸脱した幸福追求は許されるものではない。幸福追求とは、快楽追求とは異なるものであり、他人を傷つけて得られるものではないはずである。

社会福祉は、究極的には全人類の幸福を追求する目的を持って存在するものであり、グローバルな観点と、マクロの視点が求められるが、同時に全人類の幸福は、ひとりひとりの幸福が積み重なって出来上がるものだから、社会福祉援助に携わる我々は、ミクロの視点から、自身が対人援助サービスの中で関わりを持っている特定個人が、幸福感を感じて暮らし続けることが出来るかどうかが、当面の課題となっていくのである。だから僕たちは、自分が関わる人が本当に幸せになっているのかどうか、幸福感を感じて暮らし続けているのかどうかを検証し続けなければならない。モニタリングという言葉があるが、それが単に利用しているサービスの継続が必要か、変更や中止が必要かということを機械的に判断するようなことになっていては、書式を埋めるだけの作業となって、人の暮らしぶりを明らかにして、人の心のひだを感じ取る行為にはならないだろう。

僕たちの仕事は、光が作る影の部分に手を差し伸べ、影を作る原因となっているものを取り除いたり、位置を変えたりして、光があたっていなかった人に、明るい日差しが降り注ぐようにするための職業である。その時、光が当たったかに思える人に、ただ単に「幸せですか」と聞いたところで、いつも正しい答えが返ってくるとは限らない。自身の心の状態を言葉や文章で表現できない人も多い。本当に光が届き、それによってぬくもりを感じているのかどうかを、表情を見て、五感で感じ取ろうとする関わり方が求められているのではないだろうか。

短期記憶の障害があるアルツハイマー型認知症の人なら、瞬間瞬間の表情に幸せを感じ取っている様子を見つけることができるが、それらの人々はその記憶が保持できない。さっきあんなに嬉しそうにしていたのに、今、その記憶をなくして、混乱しているということがよくある。それらの人は幸せになれないのだろうか。決してそうではないだろう。嬉しそうにしている、喜んでいる、その表情そのものが幸せを感じているという表現である。その記憶が失われようとも、幸せを感じているという瞬間瞬間の積み重ねが、その人たちにとって意味がないはずはない。僕たちは、失われる記憶を虚しく思うのではなく、その瞬間瞬間を少しでも多く作ることができるように努力すべきである。きっとそれが求められることだと思う。

対人援助サービスは、人の不幸を作り出すために存在するものではない。この当たり前のことを繰り返し考えなければならない。僕たちの差し伸べた手の先にあるものが、僕たちの価値観による幸せの押し付けになってしまって、結果的に利用者がそのことで哀しんだり、苦しんだりするのでは意味がないのである。しかし僕たちが謙虚に、真摯に利用者の方々と向かい合って、お互い微笑み合える関係を日常的に作っていく先には、必ずひとりひとりの利用者にとっての幸せを見つけることができるはずだ。それを感じるお手伝いができるはずである。だれかの不幸を喜んだり、だれかの哀しんでいる姿に溜飲を下げたりする姿は醜い。そういうことにしか満足できないような人は不幸だ。そこで溜飲を下げている人の顔に浮かぶ笑いの表情とは薄ら笑いでしかなく、その姿を美しく思える人はいない。

しかし、だれかの心から幸せな笑顔に喜びを感じることのできる人の表情に浮かぶ笑顔とは、傍から見ても微笑ましいものであり、そうした笑顔は周囲の人々の笑顔の連鎖を生み出すだろう。対人援助サービスとは、本来そのようなものを目指していく職業ではないのだろうか。

上記のコラム購読のご希望の方は、右記の登録ボタンよりお申込みください。

登録はこちらから