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第38回 "特養の配置医師以外はみだりに診療を行ってはならない"の解釈

2014/10/14

特養の短期入所生活介護(ショートステイ)利用者に対して、その利用者の、「かかりつけ医師」が特養に往診することができるかという質問を受けることがある。この時に整理して考えてほしいことがある。まず一つは、一般入所者と、ショートステイ利用者の、特養における診療報酬の算定ルールは基本的に同じであるということだ。つまり厚労省医政局通知「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」は、ショートステイ利用者にも適応されるということだ。

さらに計画的に訪問して診療する、「訪問診療」と、計画的に実施するものではない「往診」とは違うものなので、別々に考える必要があるということだ。

上記の通知で、「訪問診療」に関する診療報酬の科目については、次のアもしくはイのいずれかに該当しない限り算定できないとされている。

ア.当該患者が末期の悪性腫瘍である場合
イ.当該患者を当該特別養護老人ホーム(看取り介護加算の施設基準に適合しているものに限る。)において看取った場合(在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院又は当該特別養護老人ホームの協力医療機関の医師により、死亡日から遡って30日間に行われたものに限る。)

レアケースであるが、「末期がん」と診断され、定期的な訪問診療が行われている方が、何らかの理由で一時的に特養のショートステイを利用した場合は、当然のことながらこの”ア”に該当するので、普段自宅に訪問している医師が、特養で訪問診療を行い、「在宅患者訪問診療料」などを算定することは可能であるし、一般入所者の場合も、例えば、「看取り介護」に該当した場合、死亡日前30日については、施設の配置医師ではない保険医の訪問診療を受けることも可能である。

“ア”もしくは”イ”に該当しない場合は、一般入所者・ショート利用者ともに、訪問診療は行えない(正確には、訪問診療を行っても一切の診療報酬は算定できない)ということになる。

一方で計画的ではない「往診」については、診療報酬を算定できないというルールにはなっていない。

「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」では、

2 保険医が次の表の左欄に掲げる医師に該当する場合は、それぞれ当該保険医(併設医療機関の医師を含む。)の配置されている施設に入所している患者に対する一部の診療については他給付で評価されていることから、同表の右欄に掲げる診療報酬は算定できない。

上記の記述がありその下に表が示され、表の右蘭の診療報酬は算定できないとされているが、これはあくまで「配置医師」による診療の場合に算定できない科目であり、配置医師ではない外部の医師が往診を行った場合は、診療に応じて算定できる科目である。ここは勘違いしてはならない部分である。

ただし、「4 養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、指定短期入所生活介護事業所、指定介護予防短期入所生活介護事業所、指定障害者支援施設(生活介護を行う施設に限る。)、療養介護事業所、救護施設、乳児院又は情緒障害児短期治療施設(以下「特別養護老人ホーム等」という。)に入所している患者については、次に掲げる診療報酬等の算定の対象としない。」

↑この部分は、配置医師、そうではない外部の医師であっても共通して算定できない科目である。

ところで同通知では、「3 保険医が、配置医師でない場合については、緊急の場合又は患者の傷病が当該配置医師の専門外にわたるものであるため、特に診療を必要とする場合を除き、それぞれの施設に入所している患者に対してみだりに診療を行ってはならない。」とされている。

これが唯一、配置医師ではない保険医の往診を制限している通知文である。ただしこの文章の解釈はかなり広いと言わざるを得ない。「配置医師の専門外にわたるものである傷病」とは、どのようなものかと考えると、それは配置医師の判断によらざるを得ないし、配置医師が内科医だから、内科の疾患がすべて専門外には該当しないとも言えない。この判断は配置医師以外できないと考えらえる。

例えば、発熱の場合、その原因は様々で、ショート利用者が高熱を出した時などは、医療機関ではない特養で、検査も行わずに判断できず、持病に起因していることもある。このような時は、利用者の普段の状態をよく知る、かかりつけ医師の専門的な判断が必要なことから、配置医師が認めた上で、外部のかかりつけ医師が、特養に往診することは、「みだりに診療」したということにはならず、認められるであろう。そもそもこの通知文には、配置医師ではない保険医が往診した場合に、診療報酬が算定できないということは一言も書かれておらず、診療報酬の算定ルールではなく、施設配置医師の責任を示した文章であると解釈できるもので、その責任と判断において、「みだりな診療」かそうでないかを判断すべしという文章に過ぎないと言わざるを得ない。

施設の配置医師が、ショートステイの利用者の健康管理について考えるべきことは、当該利用者が治療を受けていることを把握した上で、ショート期間中、病状的に変化がないかを管理・見守るという姿勢でのぞみ、変化があった場合、管理医が自分の裁量内と判断すれば、施設内で加療をするし、自分の手に負えない病状で、施設内の健康管理として配置医師が行う加療では不十分と判断した場合は、主治医に判断を仰ぎ、必要に応じて往診を求めるということでよいのではないだろうか。

少なくとも、特養のショート利用者に対して、配置医師ではない「かかりつけ医師」が、ショート利用期間中に特養に往診することはあり得ないという誤解は解いておく必要があるだろう。

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