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第39回 介護事業者はもうけ過ぎなのか?

2014/11/10

10/21に行われた経済財政諮問会議で、来年改訂の介護報酬について、財務省が6%の減額を勧告する資料を提出するとともに、安倍首相も「介護報酬適正化」を指示した。介護サービス事業者にとっては極めて厳しい逆風である。

介護報酬を引き下げる理由について、2014年度介護事業経営実態調査の結果、収入に対する利益の割合を示す収支差率が、特定施設入居者生活介護が12.2%、通所介護が10.6%、介護老人福祉施設が8.7%であり、一方、民間企業の売上高経常利益率は平均5%程度で、介護事業者の利益率は高水準だからであるとしている。

しかしこの理屈は素直にうなずけるものではない。民間企業の利益率と比較してというが、そもそもその分母の数字が、民間企業のそれは介護事業者の数字とは比べ物にならないほど巨額ではないか。収支差率が高いと言われる小規模デイサービスなどは、民間企業の売上とは比較できない低額の収入の中から、様々な経営努力をして利益をひねり出しているものだから、その額は決して事業経営者が贅沢な暮らしを送ることができるような額ではないだろう。

特養の収支差率が民間企業より高いというが、そもそも社会福祉法人は収益が上がっても、経営者や役員が、その配分を受ける構造にはなっていない。多くの社会福祉法人は、経営者=管理者であっても年俸700万円に達しないレベルで、役員報酬はゼロとしているはずである。その中でひねり出した収支差率である。

社会福祉法人の内部留保の問題が大きく取り上げられているが、それは施設整備の補助金が減る中で、施設の維持管理に充てるために繰り越すための費用である。この繰越金を、民間企業が使う用語である、「内部留保」ということ自体がおかしい。しかもそこには通常運営費の3カ月分に値する寄付金などが含まれている。そのすべてが、ため込んだお金ではないのだ。

民間企業は収支差率が平均5%程度であると言っても、経営者の年俸は1.000万円を超え、役員も多額の役員報酬を受けてっている上での収支率ではないか。特養の経営者と役員の報酬レベルと、民間企業のそれを同じにしたとき、この数字は逆転して民間企業の収支差率の方が特養のそれを上回ることは目に見えている。よってこの比較はおかしいと思う。

全国老施協の収支状況等調査による特養の収支率は、補助金取崩額含み4.3%であった。この数字は実質収支均衡であり、収益が上がっていないという数字だ。この数字と国の介護事業経営実態調査の数字とのかい離はなんなのだろうか?

当法人のように、開設から30年以上経っている場合、職員の平均勤続年数も高く、到底収支率8%など考えられない状況だ。ここで介護報酬が減らされたならば、単年度では赤字経営を余儀なくされ、将来に備えた繰越金を取り崩していかねばならず、それは経営危機につながりかねない問題である。実際に収支差率が上がっているという施設は、まだ経営年数が浅く、職員の勤続年数が短い事業者が多いのではないのだろうか?しかも昨今の介護事業での人手不足の状況を鑑みると、職員を募集しても応募がないために、必要な職員数を確保できず、必要な配置ができない中で、その分人件費支出が下がって収支率に上乗せされているという意味ではないのだろうか。この状況で収支差率の高さを理由に、給付費を下げたら、未来永劫、必要な職員配置ができずに、現場の職員は疲弊し、それは介護サービスの品質低下に直結するということになる。

さらに言えば、そうしたサービス低下を招かないように、職員の離職率を低下させる取り組みを行い、人手不足の中でも就業したい施設や事業所を作って、必要な職員を配置し、サービスの品質を一定以上に保っている施設ほど収支率は下がっているのだから、今回の乱暴な理屈による報酬減額は、そうした良い施設ほど経営危機に陥るという矛盾を抱えることになる。

国は処遇改善加算を残して、介護職員等の待遇改善は引き続き行ったうえで、基本報酬だけは下げるというが、結果的に運営費が減るのだから、経営危機に陥らないためには、何らかの形で人件費率を見直していかねばならず、介護報酬が下がっても職員の給与水準や配置人員を同じか、もしくは上げたうえで、事業継続していくということは神業ではないのだろうか?

本当にこの方針で、この国の介護は国民の命と暮らしを救うことができるものとなるのだろうか。介護難民が出ないと言えるのだろうか?大いに疑問である。そういう意味で、僕たちが介護報酬を適正レベルで守るべきであるという主張は、事業者の利益のためではなく、国民の命と暮らしを護るための、介護の質と量を守るために必要であるのだということを、広く国民に訴えていく必要もあるのではないだろうか。

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