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第56回 どうぞ、理想を捨てる人、理想を笑う人にならないでください

2016/04/11

4月は、たくさんの人々が新しいスタートラインに立つ時期です。介護業界でも、新しい職場に胸躍らせて、その入り口に立っている新人さんも多いのでしょう。それらの人々は、資格の有無や、前職経験のあるなし等にかかわらず、介護という仕事に就く自分の可能性を信じ、そこで頑張って実績を残そうと思っているのではないでしょうか。

毎年、介護福祉養成校に入学する学生の志望動機が、「人の役に立つ職業に就きたい」であることを考えると、介護福祉士養成校卒業者は、いよいよその志望動機の実現機会のスタートラインに立っているというわけです。君たちの希望が叶う明日に、この国の民(たみ)の笑顔が見られるのです。どうぞ、人々の笑顔があふれる日本社会を創るために、今いる場所で咲く花になってください。あなたの希望である、人の役に立つ人になってください。私たちが介護という職業を通してできることは、誰かの暮らしのお世話をすることです。それは身体面に限らず、精神面を含めた専門的援助であり、私たちの支援を必要とする人々の暮らしぶりがよくなる結果を求めることです。そうした一人一人の実践結果が積み重なって、たくさんの人々の暮らしぶりがよくなることによって、「国民の福祉の向上」が図られるわけです。つまり国民の福祉の向上とは、政治家が何かを決めて、予算をつけるだけでは実現するものではなく、その目的に向かって、名もなき市民が、それぞれの居場所で汗を流すことによってしか達成できないものなのです。私たちは、確かにその力になっており、そのために求められているのです。

そのためには理想が必要です。それは幻想ではなく、達成可能な高い目標であるはずです。介護の職場で働く先輩諸君は、新人職員の抱く理想を笑わないでください。自分がその理想を達成するスキルがないからと言って、「理想と現実は違う」などと、したり顔をして言わないでください。彼ら、彼女らには、あなたにはない英知と技術を獲得する未来があるかもしれないのですから、可能性の芽を摘むなんて言う卑屈な人間には決してなるな。

新人職員諸氏には、スキルの低い職員の現実を見て、希望を失わないでほしいとお願いしておきます。介護サービスにはまだまだ、皆さんの理想に追い付かない場所が存在することは事実でしょう。しかしそれに迎合して、理想をあきらめてしまったら、皆さん自身が同じ穴の狢に成り下がってしまうのです。どうぞ、そのような場所を変えられる人を目指してください。そのような場所を変えていった先輩が、この業界にはたくさんいることを知ってください。新人の皆さんが驚くほど、すごい知識と技術を持っている先輩職員がいる場所では、自分の無力を思い知ることになるでしょう。しかし初めから力があった人などいないのです。壁にぶつかり挫折して、血の涙を流しながら、素敵な先輩は、今そこに存在するのです。どうぞ、その先輩を超える人になってください。なぜなら私たちが作ってきた介護サービスには、まだまだ足りないものがあって、あなたたちの知恵と力が必要だからです。

私たちはやがて年老いて、あなたたちの重荷になるような日が来るかもしれません。しかしその時でも、私たちは、いつでもあなたたちの踏み台になることはできます。そのときあなたたちの靴の下で、私たちは積み上げた経験と知識を渡しますから、どうぞ、私たちを、踏み超えていく人になってください。ただ一つ気を付けてほしいことがあります。保健・医療・福祉・介護サービスという場所は、人間の感情のるつぼなんです。でもそれは決して怖いことでも、いやなことでもなく、感情のある人間に対して向かい合う場所という意味です。素晴らしい職業であるという意味なんです。

でも感情は巻き込みやすく、巻き込まれやすいのです。ですから真剣に利用者に相対すれば相対すほど、その感情に巻き込まれて、自分を失い、時には心を壊してしまう人がいます。だから私たちは、相手の感情をしっかりと受け止める必要があったとしても、その感情に巻き込まれないように、「もう一人の自分」という視点をもって、自分自身に語り掛けながら、感情をコントロールする心がけが必要です。専門的な言葉でそれを表すとすれば、「受容」・「統制された情緒関与」というソーシャルワークの原則の言葉になります。

どうぞ、そのことも忘れず、今日その場に立って、志を抱いていることを忘れないでください。君たちはきっと、「誰かのあかい花」になれるはずですから。

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