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第67回 事業経営戦略の中で考えるべき保険外サービス

2017/03/13

今後の介護事業経営戦略を考えるうえで、社会情勢や介護保険制度の行方を予測していくことは当然必要になる。だがそこは単純に今起きていることから将来予測できるもので、それに対応するシンプルな考え方が求められるだけで、それほど難しく考える必要はないだろう。単純な現状分析さえできないのであれば、その原因や理由が、企業経営の問題そのものであると考えたほうが良い。

介護保険制度は、制度を維持するために改正されていくが、その財源に限りがあり、保険料も国民負担に耐え切れないほど高額にできないとされているので、給付費用が抑制される流れは止まらない。だからといって、介護サービス事業者が無くなってしまっては、制度そのものが崩壊するので、事業経営が続けられるという一面も考えた報酬体系に向かうだろう。特にこの部分では、費用対効果を高め、財源をできるだけかけないために、スケールメリットを働かせて収益を挙げ、事業継続できる方向に誘導されていくことになる。そのため今後は、小規模経営母体が増え続ける報酬体系にはならず、それらが淘汰される報酬体系が創られていく。

さらに給付費用は、必要とされるところに効率的に重点的に配分されていくのだから、介護予防効果があるとされる「リハビリテーション」にはある程度お金をかけ、そのほか「認知症対策」、「重度の要介護者」に手厚くされ、しかもそこではサービス費用抑制につながる結果が求められていくのだから、基本サービス費を下げて、アウトカム評価につながる加算によって収益が挙がる仕組みとされていく。逆に言えば、単なるレスパイトケアに対する費用は、ざっくり削られる可能性が高いということだ。

介護保険サービス事業には、現在年間11兆円もの費用がかけられており、自然増が毎年ここに加わっていく。この自然増は、本来1兆円が見込まれているが、これを半減して5,000億円に抑える政策がとられる。よって一人にかける単価は下げざるを得ないことになる。

これらのことを総合的に鑑みれば、介護サービス事業者は、法人規模・事業規模をある程度大きくして、多角経営が求められるのは必然の結果である。その過程で小規模事業者を吸収合併していく必要も生ずるだろう。事業規模の拡大は、吸収する側になるのか、吸収される側になるのかという立場の違いを生んでいくことになって、吸収される側の経営陣が業界から退出する中で、じわじわと寡占化が進行していく可能性がある。顧客単価が減る中では、薄利多売で収益を挙げていくしかない。そのために法人全体で顧客と職員を囲い込んで、顧客数を伸ばすとともに、それに対応できる職員を、法人の中で回転させながらやりくりすることが必要になる。さらに基本サービス費の算定のみでは収益は得られないことをしっかり理解し、細かな加算費用を含めて、くまなく加算算定ができる構造に法人全体を改革する必要がある。そうなると加算算定できるために、法人規模を大きくして多職種を法人内で抱えて、そうした人材を一番効率の良い場所に配置していくことも求められる視点となる。

同時に介護保険事業収入のみに頼るのではなく、保険外の収益事業化を図る必要があるといわれる。だがこのことは諸刃の刃でもある。これからの介護事業は、限られたパイの保険給付事業のみに頼っていては、事業規模拡大にも人材確保にも限界が生ずるので、保険外事業からも収益を挙げる必要がある。だからといって保険外事業から必ず収益が挙がるわけではなく、事業経営を誤れば、それは大きな経営リスクにつながりかねないのである。そもそも保険外事業は、保険給付事業のように、制度に守られていない分リスクは大きく、経営自体は難しいのである。その経営ノウハウが無い状態で手を出しても収益が挙がるわけがない。

例えば通所介護事業と、フィットネスクラブをセットで事業展開して収益を挙げている事業者があるからといって、その形を真似るだけで収益が挙がると考えるのは大きな間違いである。そうした事業で現在収益を挙げている事業者は、通所介護サービスの事業戦略や経営ノウハウとともに、フィットネスクラブの経営戦略と経営ノウハウを同時に持っていて、それを融合されることで生まれる付加価値についての具体像を戦略化して、顧客ニーズを常に見据えた形で事業経営を行っているのだ。ただ単に保険給付事業と保険外事業を並立経営しているわけではないのである。しかも今後は、こうした形態の通所サービス事業所が増えることが予測されるのだから、ただ単に通所介護事業所にフィットネスクラブを併設するだけでは顧客確保に行き詰ることは明らかで、そこに他事業所との差別化を図ることができる、「魅力」がなければならない。そしてその魅力とは、経営者にとっての魅力(ある意味思い込みに過ぎないが)ではなく、顧客にとっての魅力でなければならず、顧客ニーズは何かということを、他所との差別化とセットで考えていく事業経営が求められる。

経営コンサルタントと契約しても、なおかつ倒産・廃業する事業所が多いのは、コンサルはガイドラインを示しても、個別の顧客ニーズにマッチした具体的方法論を示さないことが多いことによる。というか、この部分はあくまで経営者の能力によるところなので、経営コンサルタントに頼り切った経営では、必ず行き詰るということになる。経営者自らのスキルアップと、発想の弾力化が求められるのである。

どちらにしても、保険外サービスさえ行えば、事業経営が何とかなると甘く考えてはならないのである。そして顧客に選ばれる事業者となる基盤とは、ホスピタリティのある顧客対応であり、職員のサービスマナー教育は、欠かせないものであることを忘れてはならない。

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