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第69回 週2回の入浴という基準をどう考えるか

2017/05/22

特養の入浴については、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年三月三十一日厚生省令第三十九号)で、「第十三条 2 指定介護老人福祉施設は、一週間に二回以上、適切な方法により、入所者を入浴させ、又は清拭しなければならない。」と定められており、週2回入浴支援できておれば法令上の違反とはならない。

しかしこの基準はあくまで、人の暮らしとして最低限保障しなければならない基準であって、サービスの質をこれ以上下げれば、「人の暮らし」とはいえない劣悪な環境であるという意味である。つまり週2回の入浴しかできない暮らしは、人間として最低限の暮らしを担保するものでしかなく、十分なる質の暮らしとは言えないのである。むしろ世間一般的な入浴習慣を考えると、週2回しか入浴できないことは、かなり質の悪い暮らしとさえ言える。僕の場合、毎日朝晩入浴している生活を何年も続けているので、そのような暮らしは耐えられない。

だから施設サービスを考える人は、この基準をクリアしているから良しとするのではなく、なんとか最低限の基準をクリアしているレベルでしかない自施設のサービスを、もっと利用者のために向上させないとならないと考えるべきである。そう考えずに、現状を護ってさえいればよいとするのなら、自分自身が週2回しか風呂に入らない生活スタイルに切り替えて、自らそういう生活を続けなければならないと思う。

高齢者介護施設は、利用者にとっていろいろと頑張る場である。私たちなら大した運動量でもない活動でも、高齢で身体の様々な障害を抱えた人たちにとっては、大変な運動である。時には額に汗を流しながら、平行棒で歩行訓練をしている人もいる。そんな人たちが、運動後も汗を流せず、入浴回数が週2回に限られているという状態を想像してほしい。それは普通といえるだろうか。国は現在、日本の介護を海外輸出しようと考えている。しかしそうした国の基準が、週2回しか入浴できないという水準で良いのだろうか。それは恥ずべき基準といえるのではないだろうか。そしてその基準さえ守っておれば良しとする事業者もまた、恥を知るべきではないのだろうか。

しかもこの基準が、とんでもないところに波及して、恐ろしい給付制限につながりつつある。山口県某市で行われた集団指導において、居宅サービス計画について、訪問介護等の入浴支援を位置付ける際に、その回数を特養の基準(週2回以上)を当てはめて、標準回数を3回としている。そして週4回以上入浴の計画を行うのは過剰サービスであると決めつけ、この場合4回目以降の入浴については、保険外サービスとすることを求めている。これがまともな指導なのかというものだ。

つまり給付制限のための市のローカルルールを居宅介護支援事業所の介護支援専門員に押し付けているわけである。そのことはこの市の介護給付適正化委員会で協議した内容で、これは助言ではなく保険者としての指導と言い切っているわけだ。

実は週4回以上の入浴について保険外サービス費用徴収を認められているサービスは、現在存在する。それは「特定施設入所者生活介護事業者が受領する介護保険の給付対象外の介護サービス費用について」(平成12年3月30日付け老企第52号厚生省老人保健福祉局企画課長通知。「老企第52号通知」)において、保険給付対象外の介護サービス費用として、人員配置が手厚い場合のサービス利用料及び個別的な選択による介護サービス利用料として、「標準的な回数を超えた入浴を行った場合の介助」として認められているものだ。しかしこれは特定施設サービスという単品サービスにおいて、定められた介護給付費の中で、人員配置等を工夫して手厚くする経費を捻出するためという意味があり、居宅サービスとは全く意味が異なる。そして特定施設サービスを利用するに際し、母体である施設(有料老人ホームやケアハウス等)の入居要件として、そうした費用負担となることを説明・同意を得たうえで、その施設に入所して費用負担するのだから強制ではない。

だが居宅サービスに、このルールを一律適応するとなると、その地域に住んでいる人にとっては、否応のない強制ルールとなり不適切極まりない。居宅サービスの場合は、ケアマネジメントで課題を導き出したうえで、その個別の状況に対応する社会資源を、その提供回数も含めて決定するのに、行政が個人の入浴標準回数まで定めるのは、個人の権利侵害でしかない。

しかも居宅サービスの場合、支給限度額上限というものが存在し、この範囲であればサービスは1割負担であるという定めがあり、支給限度額をどのサービスに対して、どのような具体的方法に割り振るかはケアマネジメントの範疇である。入浴という特定行為だけに制限を設けるのは明らかな越権行為だ。個別アセスメントには、個人の生活習慣というものも含まれるが、障がいのないときに毎日入浴していたのに、障がいを持ち介護認定を受けたと同時に、1日おきの入浴さえ標準回数を超える贅沢サービスと決めつけるのは、あまりにも貧しい考え方ではないのか。そもそもこのルールにより、支給限度額が残っているのに、訪問介護等の週4回目の入浴支援だけ保険給付対象にせず請求するという方法は、利用者に対する不適切請求ともされかねず、一市町村の判断で決定できる問題ではないだろう。

恐らくこのローカルルールは、来年度以降に市町村へのインセンティブが認められるルールが適用されることを見越して、給付制限を先行して行おうという考え方だろう。しかしこんなゆがんだルールは先進的でもなんでもない。行政権限に胡坐をかいたおごりでしかない。このルールを本当に適用する市町村の担当者は、自分も週3回しか入浴してはならない。

このことに関して僕は過去に改革に携わった経験がある。

2000年に介護保険制度が施行されたことは、戦後初の福祉制度大改革という意味があり、施設サービスも措置から契約への変更という中で、意識改革・機構改革など発想の大転換が求められる時期だった。その当時、特養のソーシャルワーカー部門のトップを勤めていた僕は、その改革の流れに乗って施設サービスの大改革を行いたいと思い、例えば夕食時間を午後6時以降にするなどの見直しに着手した。そのときに入浴についても大幅に見直し、毎日入浴ができる方法はないか、夜間入浴も実現できないかと、法人に増員を含めた様々な要求を行った。

その背景には、介護給付費は介護保険制度創設当初が一番高く設定され、措置費の頃より収益アップが見込まれていたため、人件費支出を増やすことができる事業計画を立案することができたという面がある。その結果、正規及び非正規職員をそれぞれ増員し、プログラムを見直すことで日中の入浴支援については、ほぼ毎日実施できるようになって、毎日入浴したいという希望がある利用者や、一日おきに入浴したいという利用者の希望にも応えることができるようになって大変感謝された。ショートステイを利用する人が、利用日に入浴できない日があるなどということもなくなり、1泊2日の利用をする人が、両日入浴することも可能になった。夜間入浴については、人員配置の都合上、毎日実施はできなかったが、しかし夜間入浴を希望する人は、ごく少数ということもあって、それらの方々の希望に沿って、曜日指定で夜間入浴支援ができるようにもなった。このことも大変喜ばれたが、そんな些細なことで喜ばれるというのは、それまでがいかに良くない生活環境であったかという意味にもなる。

あの時代に時計の針を戻してはならないのである。

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