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第73回 強化されるサ高住への締め付け

2017/09/19

2013年3月に、地域包括ケアシステム研究会がまとめた「地域包括ケアシステムの構築における今後の検討のための論点」では、「地域包括ケアシステムでは、生活の基盤として必要な住まいが整備され、そのなかで高齢者本人の希望にかなった住まい方が確保されていることが前提になる。」と解説されている。つまり地域包括ケアシステムとは、住み慣れた地域で暮らし続けるために、自宅に住み続けることにこだわらず、心身の状態に応じた住み替えを求めるシステムなのである。

そうであるがゆえに、その住み替え先の選択肢を広げる必要性があった。そのため政府は、2011年(平成23年)4月27日の通常国会で、国土交通省・厚生労働省が所管する「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(高齢者住まい法)を改正し、同年10月20日に施行させた。サービス付き高齢者住宅は、この時に改正された高齢者住まい法の基準により登録される集合住宅で、介護・医療と連携し、高齢者の安心を支えるサービスを提供することを目的としたバリアフリー構造の住宅で、「サ高住」と略して呼ばれることが多い。

しかしサービス付きといっても、その機能は、見守りと生活相談のみであり、要介護者はそれによって日常生活のすべての支援を受けることができるわけではないため、外部のサービス利用が同時に考えられた。つまりサービス付き高齢者住宅とは、見守りと生活相談がサービスとして提供される住居の中で、暮らしの場とは別に存在する外部サービスを利用しながら、要介護社者等も住み続けることができる居所として考えられたわけである。

このように住まいとケアを分離することによって、公費はケアに対して給付することに限定されるために、財源負担が減る効果も、このことで見込んだものであることは明白である。そのためサ高住利用者などを、定期的及び随時の必要性に応じて巡回訪問する「定期巡回・随時対応訪問介護看護」(いわゆる時間巡回サービス)が、介護保険サービスとして創設された。その際に、せっかく24時間巡回サービスを創っても、サ高住を併設した事業所が、地域を巡回せずに、サ高住の利用者のみにサービス提供を行うことが懸念され、運営基準に一定割合以上の外部の利用者への巡回義務を課すことが検討された。

しかし取り急ぎ全国各地にサ高住を建設促進したい国は、数値義務を課すことは、一定程度のサービス事業者数のある地域にしか、サ高住を建設できないデメリットにつながることを懸念し、結局運営基準(平成18年厚生労働省令第34号)では、「指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業者は、指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所の所在する建物と同一の建物に居住する利用者に対し、指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護を提供する場合にあっては、当該住居に居住する利用者以外の者に対し指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護の提供を行うよう努めるものとする。」という規定にとどめた。つまり運営基準上、同一の建物に居住する利用者以外の者に対する「定期巡回・随時対応型訪問介護看護の提供」は、必須条件や義務ではなく、単なる努力目標とされているのである。このため当初の懸念のように、実際には地域を巡回せず、併設のサ高住の利用者のみの訪問サービス・通所サービス提供が目立つようになった。そのことにメスを入れようとしているのが、次期介護報酬改定であり、集合住宅減算や同一建物減算が強化される方向で議論が進んでいる。

加えて8/23の介護給付費分科会では、集合住宅・同一建物減算に絡めて、区分支給限度額の見直しが検討された。サ高住などの集合住宅にかかる減算が適用されている訪問系のサービスを対象に、現行は減算後の低い単位数を足していく仕組みを見直し、減算されていても区分支給限度額の計算だけは通常の減算されない単位数で適用を判断する仕組みを導入できないか検討するということである。つまり現在の仕組みだと、減算されている場合、減算された単位数で区分支給限度額適用が判断されるために、減算されたほうがサービスをより数多く使える状態となっており、公平性の観点で課題があるのではないかと指摘されたものである。同時にサービス提供事業者は、減算されたとしても、その分区分支給限度額に余裕ができるため、サービスの提供回数を増やすことができることになる。そのため減算された分を、サービス回数を増やしたり、サービス提供時間を長くして補おうとするケースが見受けられる。このように儲けを増やしたい事業者による過剰なサービスを抑制する狙いもあり、区分支給限度額の適用方法の見直しが検討されているわけである。

このことの実現性は極めて高いが、そうなると区分支給限度額管理を行う、居宅介護支援事業所の介護支援専門員の仕事にも影響が出ることは当然である。減算対象者の場合、給付管理上の計算で区分支給限度額を管理するのではなく、給付管理上の計算とは別に、減算されない場合の単位数で月額利用単位数を計算して限度額管理を行わねばならない。コンピューターソフトで対応できそうな問題ではあるが、どちらにしてもますます複雑怪奇な制度・報酬システムになりそうな気配である。混乱する利用者や家族がいてもおかしくないし、専門家である介護支援専門員やサービス事業所の担当者の中にも、混乱が生ずるかもしれない。

しかしこの流れを見ると、今回の報酬改定における財源削減の一番のターゲットは、サ高住へのサービスであることがうかがい知れる。サ高住を建てて、そこに要介護者を集め、併設もしくは関連事業として居宅介護支援事業所や訪問介護等の居宅サービス事業所が利用者を囲い込み、サ高住の利用者のみに対するサービス提供で、利益を上げるケースや、併設・関連事業所ではなくとも、顧客を集合住宅の居住者に絞ってサービス提供しているケースを狙い撃ちしているということだ。

8/28に発出された介護保険最新情報Vol.603においても、建設補助金の支給に関わる市町村の意見聴取に関連して、郊外部にサ高住を立地する場合も、適切な医療・介護サービスを選択できるように、サービス資源が存在する場所のみに、サ高住を建設することと、サ高住の入居者に対し、併設事業所のサービス利用を強要するようなことがないように指導強化することを通知している。これは補助金支給に関わる通知であるが、これを受けてサ高住に併設されている居宅介護支援事業所の運営指導の際に、担当ケアマネジャーを併設事業所に変更することを強要していないか、併設居宅介護支援事業所により、併設事業である訪問介護等に偏ったサービス利用の計画になっていないかという運営指導も強化されることになる。居宅介護支援事業における、集合住宅減算や同一建物減算の適用も検討されることになろう。

この背景には、サ高住の整備自体は、ほぼつつがなく終わり、全国各地にサ高住は既に存在し、かつサ高住の過剰供給地域も見られるようになって、利用者が集まらないサ高住の身売りが行われているだけではなく、その影響で全国の特養に25%の空きベッドが生じているという問題もあり、これ以上のサ高住の供給の必要はなくなり、今後は必要のあるサ高住だけを創り、必要のあるサ高住だけを残そうという、「梯子はずし」の時期になったという意味である。ということで、サ高住を抱える事業者の経営戦略は、抜本的に見直さないと経営は行き詰まることは明白である。サ高住利用者の囲い込みモデルは崩壊するので、サ高住以外の地域の利用者に対するサービス提供を広げていくための戦略見直しが不可欠である。当然住宅型有料老人ホーム利用者の、併設指定介護保険サービス利用も、より厳しい目が向けられることになる。この見直しが遅れると取り返しがつかなくなり、経営破綻に追い込まれる事業者とならざるを得ない。

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