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第83回 従業員を護るために事業者としてしなければならないこと

2018/07/09

労働組合「日本介護クラフトユニオン」(東京)が4月に公表した調査結果(速報値)は、介護職の73.5%が、高齢者やその家族からハラスメントを受けた経験があり、中でも利用者の自宅が仕事場となる訪問介護員の被害が多いという内容になっている。

ヘルパーの被害は、男性利用者に突然ベッドに押し倒され抱きつかれたり、密室化する利用者宅のドアに鍵をかけて監禁されそうになったりという、極めて悪質なケースも含まれている。これはもう犯罪である。報道はそうした行為に対し、兵庫県が問題のある利用者宅に職員が2人1組で訪問できるよう、人件費の一部を補助する事業を今年1月に始めたとしているが、同時にその対策をとった事業所実績はゼロであるとしている。それはある意味当然だ。ヘルパー確保が困難な人員不足の状態で、人件費に一部補助があるからといって、人をそれほど雇えるわけがない。つまり兵庫県の対策など何の役にも立たないもので、アリバイ作りにしか過ぎない対策だということだ。

こうしたケースに対しては男性ヘルパーを派遣するしかないという意見もある。しかし訪問介護事業者の平均給与は、登録ヘルパーという勤務形態などの非常勤職員も多いことが原因で、介護施設などのそれと比べても低くなりがちで、男性ヘルパーを確保すること自体が難しく、そうしたすべてのケースに男性で対応することもできないのが実情だ。そうであるがゆえに、行政にそうしたケースを報告して、行政権限で利用者にサービスを使うことができないようにするなどの罰則を与えるべきだという意見もあるが、市町村にそのような権限があるとは思えない。それよりも先にすべきことが介護サービス事業所にあるのではないだろうか。まずは従業者を性犯罪から護るために、正当な理由によるサービス提供拒否を躊躇すべきではない。勿論そのことは行政にも報告すべきである。

そもそも報道されているセクハラ行為は、犯罪行為といってよい悪質なものが含まれている。こうした行為が行われた場合、法治国家である我が国では、その犯罪を取り締まる警察対応が求められるべきだ。行為が悪質でも、サービス利用中の1度きりの間違いだから穏便に何もなかったように済ませようと事業者が考えることが、こうした行為を根深くはびこらせて、一向になくならない原因となっているのではないだろうか。

顧客に対して介護事業者はサービスを提供する立場であり、お客様に満足いただけるようにホスピタリティの精神をもって奉仕する必要はあると言っても、その関係はサービス事業者が奴隷となって、客の要求にすべて応えなければならないというものではない。客が法律を犯すことまで許容することはできないわけである。利用者宅という密室で行われた不適切行為を証明できるのかという議論があるが、それが証明困難だからと泣き寝入りを従業員に強いる事業者からは、職員がどんどん離れていく。それは事業経営の危機にも直結する問題だ。事業管理者は、もっとこの問題を深刻にとらえるべきである。

介護事業経営者は、職員から利用者のセクハラ行為による被害報告を受けた場合は、直ちに利用者に抗議するとともに、その後の適切なサービス提供ができないと判断した場合は、速やかに「正当な理由によるサービス提供拒否」という措置をとるべきである。そのうえで、そのことを行政に報告すべきだ。その報告を受けた行政が、どのように判断し、どのように動くか(あるいはまったく動かないか)は、行政に任せてよい問題で、事業者は粛々と事業者としてとり得る対策を行うべきだ。さらに行為が悪質と判断した場合は、迷わず警察に通報すべきだ。そうした悪質な行為が、ヘルパーの証言でしか証明できないために、刑事処分ができない結果に終わったとしても、事業者としてつかんでいる事実に基づいて、犯罪行為を通報するという義務を行使することで、悪質な犯罪の抑止力ともなり得る可能性がある。法治国家の国民としての義務を果たし、権利を行使すべきであり、そのことだけを粛々と行うという考え方で良いのではないだろうか。

行われた悪質行為に対しては、サービス利用者であったとしても、法で罰せられて当然であると考える必要があるのではないだろうか。

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