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第84回 利用者にもコスト意識をという全国老施協の意見について

2018/08/27

介護報酬改定が行われた新年度がスタートしてすぐに、3年後の介護報酬改定に向けた議論が始まった。3年後のそれは、今回のように診療報酬とのダブル改定ではなく介護単独の報酬改定となる。そのため今回のように薬価の引き下げ分の財源があり、介護報酬もそのおこぼれにあずかることができたような恩恵を受けることもできず、非常に厳しい報酬改定になることが予測されている。そこでは当然、今より厳しい給付抑制や財源確保の方策が模索されてくるものと予測される。そのような中、過去に何度か議論の俎上にのぼりながら実現が見送られてきた「ケアマネジメントにかかる利用者負担の導入」(居宅介護支援費の自己負担導入)が、内閣府の今年度の骨太方針案の中で取り上げられており、政府が本気でこの導入を図っている姿勢が見て取れる。一部報道では、厚労省も利用者負担導入に向けて、早ければ2020年の通常国会への関連法改正案提出を目指す姿勢を示しているとされている。

この骨太方針に対して、全国老施協がこのたび提言をまとめているが、その内容とは、「ケアマネジャーのサービスを利用しているというコスト意識を持っていただく必要がある」と理解を示すものとなっている。一方で、「ケアマネジメントへのフリーアクセスの観点は不可欠であり、過度の負担増によってサービス全般の利用を控えなければならない状況は避けるべき」として、「例えば500円や1000円といった定額の負担を求めることとしてはどうか」と提案している。加えて、「ケアプラン作成を介護支援専門員の業務独占とすることも念頭に、セルフケアプランに関して仲介業者などの関与の可能性について抑止する必要がある」と意見具申を行っている。

老施協がいう「セルフケアプランに関して仲介業者などの関与の可能性について抑止する必要がある」の意味は、介護サービス事業者によるセルフプラン作成の無料支援を見返りにした、サービスの囲い込みを意識したもので、その対策とみてよいだろう。しかしそれを行いながら定額負担を導入することにより、「利用者が居宅介護支援というサービスを利用しているというコスト意識を持つ」ことにどのような意味があるのだろうか。そもそもコスト意識とは、コストを効率化し最大限の利潤を上げるということである。居宅介護支援費のコストをもっと安くして、最大限の支援効果を挙げろとでもいうのだろうか。それではますます介護支援専門員の労働対価は底辺化してしまう。

それとも利用者がコスト意識をもって、自身でサービス利用を控えよとでもいうのだろうか。それはもう脅しの世界でしかない。利用者が居宅介護支援という業務にもコストがかかっていることを、自分の懐からもお金が出ることで実感したとして、だから居宅介護支援費をもっと安くしてほしいと思う人はいるかもしれないが、それでもって自分に対するサービスの質が下がったり、サービスが抑制されたりすることを望むわけはないし、お金をかけているという意識が、直接負担分を支払うことで実感した先には、「私のおかげで収入を得ているのだから、理屈をこねずに自分の言う通り働け」という支配意識が生まれるだけではないのだろうか。つまりケアマネジメントへの自己負担導入は、自分の担当ケアマネを、ケアパートナーとして信頼する意識作りを阻害することとなり、そこでは利用者のケアマネに対する下僕意識だけが醸成される結果になりかねないと危惧するのである。いくら介護支援専門員が信頼を得るために努力しても、利用者の見る目が変わってしまうことで、関係性にも微妙な影が出かねない。そういう意味でも居宅介護支援費の自己負担導入にはデメリットが大きいように思える。しかもそうした中で介護支援専門員は、利用者自己負担分の請求業務や受領業務、それの付随する滞納者への催促と滞納金が発生した場合の処理という業務負担を新たに負わねばならず、必ずや生ずるであろう回収不能の滞納金による収益ダウンの結果責任を負わされることも予測される。そういう形で仕事が増えて給料はほとんど増えないのであれば、居宅介護支援事業所の介護支援専門員などやっていられないと思う人が増えるのではないだろうか。

それにしてもこれだけ多くの痛みを国民に負わせようとしている中で、政治家はまったく痛みを負おうとしないばかりではなく、介護保険制度は歪められていくばかりのように思えて仕方がない。もっとまじめにこの国の将来象や、社会のセーフティネットを考える政治家や官僚はいないものなのだろうか。

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