HOME > U+(ユープラス) > masaの介護・福祉よもやま話  > 第91回 国の考える施設業務の切り分けとは

U+(ユープラス)

U+のTOPへ

mssaの介護・福祉よもやま話

コラムニストの一覧に戻る

第91回 国の考える施設業務の切り分けとは

2019/03/25

厚生労働省は来年度から、特養や老健などの施設で介護職員が担っている業務を整理・分類する取り組みを本格化させるそうである。その構想とはベッドメイキングや清掃・配膳など、必ずしも高度な専門性を必要としない業務を切り分け、地域の元気な高齢者などに任せていくということだ。それは深刻な人手不足の解消やサービスの質の向上につなげる対策として考えられているとのことである。そのため自治体などと連携してパイロット事業を始め、そこから全国に展開していく計画だそうである。

馬鹿も休み休み言えといいたい。こんなことにお金をかけてどうするのだ。そもそも施設介護は、資格の要らない仕事であり、介護業務も業務独占ではないのだから、各施設でいろいろな人が、いろいろな仕事をしている。現場レベルで業務の切り分けは終わっているのだ。

僕が管理していた特養や通所介護では、洗濯や清掃は、介護職員とは別に専門に行うパート職員を雇用していた。僕が1年間だけ事務次長職で勤めていた老健では、ベッドメイキングは、運転手として雇用されていた複数の男性職員が、運転業務がない時間に行っていた。そんな例を示すまでもなく、既に多くの介護施設では、ベッドメイキングや清掃などは付帯業務として、介護職員の業務からは切り分けて業者委託をおこなったり、介護職員以外の職員が対応していたりするわけである。今更パイロット事業にお金をかけて考えなければならないような問題ではない。

そもそも配膳を手伝う介護ができない職員がいて、どれだけの介護職員の仕事が減ると言えるだろう。それで配置職員を一人でも、二人でも減らすことができるとでも言うのだろうか。介護ができない職員が配膳している間、介護職員は食卓テーブルに座って配膳を待っているわけにもいくまい。そうであれば介護職員が配膳するという行為自体は無くならないわけで、そこで省力化できるものとは、いったいどれだけの時間であり、どんな業務内容なのか、むしろ利用者の顔を覚えられない介護ができない職員が、食札をみながらオロオロしている姿にイラついたり、それらの人に指示することに時間を取られたりするのではないのか、介護職員以外の職員が配膳している間に、食事介助を始められると言っても、それはどれだけの時間差なのか、そもそもそのような配膳を続けているバタバタした状態で、落ち着いて食事を楽しむことができるかを考えたとき、この切り分けはとんでもなく「暮らしの質」を無視したものにしかならないことがわかるだろう・・・。わからないとしたら、相当の素人である。頭が良くて知能指数が高い馬鹿ほど、始末の悪い存在はないのである。仮に切り分けた簡単な業務を「地域の元気な高齢者などに任せていく」ことができるとしても、それが少しは介護施設業務の省力化につながるとしても、毎日3度3度の食事場面で、切れ目なく任せられる人が施設に来ると考えるほうがどうかしている。

老健ではリハビリの一環として、卓球や花札、麻雀、トランプなどを行う相手として、地域の高齢ボランティアがその役割を担っていることがあるが、毎日切れ目なく来てくれる高齢者などいない。仮に最低賃金程度のお金を支払って雇用するとしても、そのような人が本当にいるのかは疑問である。対価を得る労働だとしても、最低賃金程度で、切り分けられた「誰でもできる業務」を担当する人に、どれほどの責任感が要求できるというのか。突然休み、そのフォローに時間をとられ、逆に労務管理は増えて大変になるだけだろう。元気な高齢者だからといっても、それらの人たちが責任感を持って安定的・継続的に働いてくれるのかという問題だ。それは無理だろう。

そもそもこのことは人材対策にはあり得ず、人員対策にしか過ぎない。とりあえず飯食わしたり、寝かせておく場所を作ったり、掃除したりする人員を確保すれば、介護業務が回ると考えるとしたら大間違いだし、そのことで介護業務を回す方向にもっていってしまえば、利用者の暮らしの質は間違いなく低下せざるを得ない。なぜなら介護業務を切り分けるという意味は、施設で暮らす人たちの日常の暮らしの連続性を断ち切ることとイコールだからである。そこでは業務の都合に、暮らしを合わせるという集団ケアの弊害が、一段と進む結果にならざるを得ない。それは国が施設サービスに対して批判してきた状態そのものではないのか。そんなことも理解できないのだろうか。知能指数は高くても、汗をかいて介護労働をしたことがない者どもが、厚労省というお屋敷の中で、デスクに張り付いて考えた結果がこれである。こんなものに国費を浪費するのが仕事かと言いたい。

こんな意味のないことを考えて、良い対策ができていると思い込んでいる連中は、机上の論理にどっぷりつかって、本当に必要なものが見えなくなっていることにさえ気が付いていない。予算付けすれば、それが実績になるのだから、それだけで満足しているのだろう。そういう連中が本当の意味で、この国のことを考えているとは思えない。官僚という名にも値しない。くだらない机上の対策を練っている暇があったら、本当に介護現場では何が起きて、何を求めているかを知るために、1週間でも3日でもいいから、介護施設で実習でもしろよと言いたくなる。

上記のコラム購読のご希望の方は、右記の登録ボタンよりお申込みください。

登録はこちらから