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第98回 2020年介護保険制度改正に向けた給付と負担のテーマ

2019/10/21

介護保険法の改正が来年に迫り、社会保障審議会の介護保険部会では、今年2月から法改正に向けた審議が始まっている。同部会で月1回〜2回の審議を積み重ねて、年内に取りまとめを行うというスケジュールが示されている。8月29日(第18回)の同部会からは、議論内容が総論から各論へ移り、年内の取りまとめに向けて、いよいよ本格的な審議がスタートしている。

介護保険部会や介護給付費分科会は、「審議の場」とされているが、その実態は国の方針を追認するだけで、議論は単なるアリバイ作りに終わっている感がある。そういう意味では各委員の成果ある意見陳述にはあまり期待できないものの、その行方を見守っていく必要があるだろう。

ところで、29日の部会では給付と負担のテーマとして、下記の3点も検討事項として挙げられていた。
1.被保険者・受給者の範囲
2.居宅介護支援費の自己負担導入
3.軽度者の生活援助サービス

1については、いよいよ2号被保険者の年齢引き下げ論が、本格的に審議対象となる。もともと、介護保険制度を創設する際の審議を行っていた老人保健福祉審議会では、「負担は20歳、受給は65歳から」と一旦決定していた。それが、法案提出直前で当時の連立与党(自・社・さきがけ政権)プロジェクトチームの強い要請で、厚生省私案が方向転換し、負担が40歳に引き上げられた。その時には老人保健審議会が、「一夜で内容が変わるなんて無節操」と猛反発したという経緯があった。今回はその時の議論に戻って、負担年齢を少なくとも30歳までに引き下げたいという、国の意向に沿った審議が行われる方向性が示されている。

2割負担や3割負担の所得水準の見直しも行われ、その対象者が拡大される方向が示されている。現行では所得水準の上位20%を2割負担以上の対象としているが、これを上位25%へ拡げる案を軸に検討する方針を厚労省が示している。このように対象を拡大する先には、近い将来1割負担をなくして、すべての被保険者の自己負担を2割以上とする意図があるのだろう。

また補足給付の対象費用については、現在1千万円以上の預金がある人は、補足給付対象外であるが、現在その対象に含まれていない土地・建物などの資産も勘案することが検討されている。今後は、資産価値が一定額以上ある人も補足給付の対象外とされることが検討される。この場合、現金がなく払えない場合は、銀行から借り入れができるようにする仕組みがリンクされることになる。土地・建物の資産価値の範囲で銀行が貸付を行う。利用者の死後は、土地・建物を売却して借金を銀行に帰す。このように貸付金の焦げ付きリスクがない形で、借金で利用者負担分を支払う方式が検討されている。

2については、日本経済団体連合会の委員から、ケアプラン有料化(居宅介護支援費の自己負担導入)を求める声が挙がったが、それに対して「経済的な理由から必要な介護サービスを利用できなくなる」(認知症の人と家族の会:花俣委員)などの反論が相次いで、反対派の方が多数を占めるという結果となった。しかし、すでにケアプラン有料化は既定路線となっている感があり、これが今後の議論の中で変更される可能性は低いのではないかと感じている。

3については、「要介護1と2の人を対象とした訪問介護の生活援助」を、介護給付から切り離して、市町村の地域支援事業に持っていくという内容だ。つまり要支援者の訪問介護と通所介護と同じように、地域支援事業化するという方向が示されている。これは極めて実現性が高くなったと言えるだろう。

ところで生活援助と同様に、地域支援事業化されるのではないかと言われている「要介護1と2の通所介護(以下、軽介護者の通所介護と略)」については、この中に含まれていないが、それはどうなるのだろうか。

軽介護者の通所介護を介護給付から除外すべきだという意見は、財務省が強く提言しているもので、予防通所介護が地域支援事業化された直後から、その主張は行われ続けていた。そして今年4月23日の財政制度分科会資料の中でも、そのことは示されており、以下のように提言されている。
・「小さなリスク」については、より自助での対応とし、軽度者のうち「要介護1と2への訪問介護サービスの約1/2を占める生活援助型サービス」と、「要介護1と2への通所介護」については、地域支援事業への移行や、利用者負担の見直し(自己負担による利用)を、具体的に検討していく必要がある。

8月29日の介護保険部会では、この中の「要介護1と2への訪問介護サービスの約1/2を占める生活援助型サービス」の給付見直しだけが、取り上げられているという訳だが、それが即ち軽介護者の通所介護外しは無くなったという意味ではないだろう。というのも「経済財政運営と改革の基本方針2019」(原案〜骨太の方針〜)には、介護インセンティブ交付金(保険者機能強化推進交付金)に関する部分で、次のような提言が示されている。
「介護予防について、運動など高齢者の心身の活性化につながる民間サービスも活用し、地域の高齢者が集まり交流する通いの場の拡大・充実、ポイントの活用といった点について交付金の配分基準のメリハリを強化する。」
さらに、8月7日に厚労省で行われた「有識者会議」の資料にも次の一文が載せられている。
「一般介護予防事業」の「通いの場」について、疾病・重症化の予防や体操などの効果を高める観点から、医師や保健師、理学療法士、管理栄養士といった専門職がコミットする機会を増やしていく構想を示した。

これらは、市町村のPDCAサイクル構築の中で、プロセス評価やアウトカム評価の指標を新たに定めて、インセンティブ交付金と連動させるという考え方を示したものだ。つまりは、予防通所介護の通いの場さえ十分に確保できているとは言えない中で、さらに地域支援事業の通いの場を要介護2の人まで拡大して対象としても、通ってサービスを使える場所がないという現状があるため、今すぐに「軽介護者の通所介護」を介護給付から外せないという現状評価をしているものと思える。そのため市町村のインセンティブ交付金を得る指標評価の中に、軽介護者が通うことのできる場を確保し、なおかつ、そこに介護予防の専門職をコミットさせることによって、より高いポイントが得られるようにすることで、市町村の責任において軽介護者の通いの場を確保しようとする意図が読み取れる。

次期改正では、とりあえず「要介護1と2の生活援助」だけを介護給付から切り離したうえで、それを橋頭保として、徐々に地支援事業化するサービスを増やしていくのだろう。「軽介護者の通所介護」については、ひとまず介護給付サービスとして残し、市町村には急ぎ、「軽介護者の通所介護」を介護給付から切り離した際に、その対象者が通って使えるサービスの場を創るように促し、次期報酬改定もしくは制度改正時に、「軽介護者の通所介護」を地域支援事業化しようということだろうと思う。どちらにしても「軽介護者の通所介護」は、いずれ介護給付から外れることは間違いのないところだ。

通所介護事業者は、それに備えて重介護者へシフトできる介護力の向上に努めねばならない。また、障がい者の方々の「生活介護」を、高齢者の「通所介護」と同時一体的にサービス提供ができる共生型通所介護への移行を早期に進める必要もあるだろう。そうした備えがない通所介護事業所は、倒産予備軍とならざるを得ない。

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